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新しい信長像――そのカリスマと狂気

新しい信長像――そのカリスマと狂気

『王になろうとした男』(伊東 潤)


ジャンル : #歴史・時代小説

本能寺の変の謎

本郷 さて、信長の生涯最大のミステリーである本能寺の変に話を進めましょう。最近では、四国の長宗我部氏の征伐をめぐるやりとりの中に、謀反の原因があるとする説も出ています。

伊東 本能寺の変は、家康を殺すために信長が仕掛けたトラップだったと、私は思っています。

本郷 それは大胆な説だ(笑)。

伊東 家康が信長に呼ばれて、安土に伺候し、それから京、大坂、堺をめぐっているのですが、非常におかしなスケジュールです。家康は五月十五日に安土入りして、十七日饗応を受けています。二十一日には京に入り、二十八日に大坂に行き、翌二十九日に堺に到着した。そして、六月二日まで滞在し、安土から京に着いた信長の招きに応じて堺を発っています。この時の家康は少人数でしたから、信長は、野盗か野伏を装った自軍に襲撃させようと思っていたのではないでしょうか。ところが、家康は用心深い。そこで信長は馬廻衆を安土に置いたまま京都に現れた。自分を囮にしようとしたのです。

高橋 SPである馬廻衆を連れて行かないことで、家康を誘い出そうとしたわけですか。

伊東 そうでないと、馬廻衆を連れて上京しなかった理由が説明できません。家康には、茶屋四郎次郎という諜報機関がありますから、信長が少人数で本能寺に入ったと知っています。それで安心して堺から京に向かったわけです。ところが光秀も、こうした状況を把握していた。

高橋 わざわざ自分を囮にしてまで、家康をどうしても殺したかったわけですね。

伊東 そう思いますね。武田家を滅ぼした時点で、信長にとって家康は用済みになっています。関東の北条氏も信長に臣従していますから、家康を楯にする必要はない。すでに信長は、家康嫡男の信康を切腹させていますから、あとは本人を亡き者にするだけの段階に来ていたわけです。

高橋 常に疑問だったのは明智光秀の準備不足です。あれだけの戦略家が何故か、信長を殺してしまった後のビジョンを一切持っていないことが不思議でなりません。

伊東 確かに光秀は、謀反にあたって根回しをしていません。少なくとも娘をとつがせている細川家や、仲の良かった大和の筒井家などには、前もって工作しておくべきだった。

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王になろうとした男
伊東潤・著

定価:本体660円+税 発売日:2016年03月10日

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