書評

黄色い蝶の結んだ縁
両国橋架け替え工事の裏側で

文: 篠 綾子

『黄蝶の橋 更紗屋おりん雛形帖』 (篠綾子 著)

 両国橋はおりんが江戸へ来た前年、大風によって流されてしまいました。

 ちなみに、この年、箒星が現れ、大風が吹き、黄蝶が群れ飛んだという話が、戸田茂睡(もすい)の記した『御当代記』に書かれています。

 黄蝶は両国橋の上にも、群れて飛び交っていたことでしょう。

 美しくも、どこかそら恐ろしささえ感じさせる光景――。花が咲いているわけでもない橋の上に、蝶が群れ飛ぶなんて――。まして、蝶は黄泉の国の使者ともいう。

 ――何か不吉なことがある。

 当時の人々の恐れはまさに的中し、両国橋は壊れてしまいました……。

 さて、この両国橋の架け替え工事で、沼田藩はそのための木材を用意することになるのですが、沼田は飢饉でそれどころではなかった。この木材を用意できなかったことが、真田家改易の直接的な要因になるのですが、一方で苦しめられた沼田の農民たちの中から、ついに立ち上がる人物が現れます。

 杉木茂左衛門(もざえもん)――後に、強訴をした罪で磔にされるので、磔茂左衛門とも呼ばれています。

 時代としては、佐倉惣五郎(そうごろう)とあまり変わらないはずですが、義人として知られる佐倉惣五郎より、残念ながら知名度は低いのではないでしょうか。

 茂左衛門は、将軍に直訴するため江戸へやって来ます。

 こうして、おりん、松姫、茂左衛門が江戸に出そろうことになるわけです。

 おりんは種々の事情から、松姫とも茂左衛門とも知己となり、着る物に必要以上のお金を投じる着道楽の松姫と、継(つ)ぎ接(は)ぎだらけの小袖や股引を着る茂左衛門の板挟みになります。

 呉服屋とは、客に対してどうあるべきか。

 権力者や虐げられる人々の前で、呉服屋は何ができるのか。

 迷いながら、おりんの取った行動とは――。

 それは、世の中を変えるようなことではありませんし、真田家や茂左衛門の命を救うわけでもありません。ですが、おりんなりに、真田家や茂左衛門のためにできることを為そうとします。

 そうやって、一歩だけ前進したおりんの姿を、どうか温かく見守っていただければ――と、願ってやみません。

黄蝶の橋 更紗屋おりん雛形帖
篠綾子・著

定価:本体690円+税 発売日:2015年02月06日

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