料理研究家の草分けである辰巳浜子さんが著し、昭和の家庭で読み継がれてきた料理書に、娘である辰巳芳子さんが注釈をつけた新版の新書判が登場しました。お正月の中心的な食材であるお餅の扱い方を、あらためて学びませんか。
あべ川餅
香ばしいきな粉のあべ川餅は、海苔を巻いた磯巻とならんで、両大関と申せましょう。
あべ川餅はきな粉を吟味しなければなりません。国産の大豆、更においしいのは黒豆のきな粉です。地方の方達は純粋のきな粉を召し上がれるのでしょうが、都会の者は買うより他に手がないので、いつもきな粉えらびに苦労します。ビニールにきっちり包まれたきな粉を開けてなめるわけにもまいらず、ビニールごしに色、香り、肌目をためつ、すがめつする位が関の山です。上等のきな粉が手に入り、甘味に和三盆を使えれば、天にも昇るようなあべ川餅になりますが、それはさておき、白砂糖で結構です。
熱湯をさめないように工夫して、その中に焼きたてのお餅をくぐらせ、砂糖入りのきな粉にまぶします。お餅を湯につけ過ぎてべとべとにしてはいけません。お湯がにごったり、冷めたりしたら、新しいものに取りかえましょう。
小まめに熱湯を取りかえることが、あべ川餅をおいしく作るこつです。
*きな粉の原料には黒豆と青豆もある。砂糖の他に少々塩を用いねば、美味にはならない。私は料理に用いる砂糖はすべて喜界島産の赤ざらめとしている。ぜひ国産きな粉を入手してほしい(本書二三七~八頁参照)。(辰巳芳子)
イラスト◎前田典子
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