料理研究家の草分けである辰巳浜子さんが著し、昭和の家庭で読み継がれてきた料理書に、娘である辰巳芳子さんが注釈をつけた新版の新書判が登場しました。お正月の中心的な食材であるお餅の扱い方を、あらためて学びませんか。
お餅のこと
お供えなんて固くなってしまって食べるのにこまるしそれにカビも生えるし、と若い奥様方はいわれますが、お三方に白米を敷きつめてその上に奉書を一枚のせてからお供えをおいてごらん下さい。かびは防げます。
お餅がつけるか、つけないかが、歳の瀬が越せる、越せないに通じた時代は、お餅が日本人の食生活の中で重要視され、神事、吉事、仏事には切り離せないものだったのです。したがってその扱いも非常に丁重で、正月の鏡餅の飾りつけは、しきたり、風習に格調を持たせて法にかなうように美しく飾りました。
これは家々の流儀によっていましたし、それが正月の支度の第一と考えていた程です。
私は生家の習慣から、暮の二十八日には必ず餅をつきます(世間でも末広がりという意味でお餅は八の日についたもの)。そしてお供え用、輪飾り用の御幣(ごへい)を裁ち、裏白、葉つき橙(だいだい)、昆布、ほんだわら、ごまめ、勝栗、根引の松、やぶこうじ、ころ柿、ゆずり葉、金銀の水ひきをそろえ、鏡餅の飾りつけをすますと、新年を迎える折目正しさを感じて、おせち料理作りにも一段と熱が入るような気になります。
お餅の焼き方
雑煮、つけ焼、磯巻のお餅はうっすらと狐色に焼きます。あべ川、おしるこにするお餅は、はっきりこげ目がつく位に焼く方が香ばしくて、おいしいようです。
お餅は炭火で焼くのが一番おいしいので、備長(びんちょう)炭(堅炭)をかんかんにおこしてうっすらと灰をかけ、気を落ちつけてお餅番をした頃がなつかしく思い出されます。
炭火で焼く場合は完全におきてから焼きます。火が真赤におきていないと、木炭から出る特有なくさみが餅に移るからです。網の上にのせたお餅は、順々に返しながら焼きます。三十六遍返すと必ず火が通ると聞かされていましたが、事実その通りです。木炭に縁遠くなった近頃の都会の生活様式では、ガス火や電熱で炭火と同じような焼き方の工夫が必要になりました。
ガスの場合は、ガス用の焼網器を二つ重ねて中火で焼けば、まず成功です。
電気の場合は高さ三センチ位の金属性のわくをおき、その上に網をおくと、熱が平均して調子よく焼けます。私は電気コンロの大きさに合わせて、丸いかねの粉ふるいを使っています。
イラスト◎前田典子