浜本 そういう意味では、映画でも、お芝居をうまく撮り終わった後も、大変な作業が待っていました。篠田監督が山本さんと約束した、あの永代橋のシーンです。
山本 あの橋の大きさ、スケール感を、でかいスクリーンでしっかり見せてもらったとき、もうそれだけで嬉しくなりました。あれはどうやって撮ったんですか。
浜本 あまり資料は残っていないんですよね。「江戸名所図絵」とか、幕末の写真を参考に。実際に伊勢の宇治橋へ行って、資料用の写真を撮ったりもしました。実際の橋は、十二メートルくらいのものを作ってスタジオで撮っているんですが、欄干などのディテールは手前だけで奥はない。それに、別に撮った川の流れを重ねて、行き交う群衆を重ねて、舟を入れて、「しまった蔵を忘れた。蔵、どうしよう」というんで蔵も入れて……。大嘘かもしれません(笑)。でも、作った以上は胸を張って「これが浜本組の“江戸”です」と言うしかない。
山本 小説も同じですよ。歴史的な事実で嘘はつけない。喜んだり悲しんだりという、人の心も江戸時代と今でそうは変わらないでしょう。でも、上に乗っけているのは、みんな作者のついた嘘、嘘、嘘なんです。でもそこに、作り手の思いというのは間違いなく表れている。
池波正太郎さんも力説しておられたけど、映画というものは実に色々な技の結集なんですよね。画で盛り上げて、音楽で盛り上げて、役者さんの演技で盛り上がっていく。
浜本 また、今回こだわりたかったのは、お江戸の話は、なるべく東京近郊、関東で撮りたいということ。時代劇は今、ほとんどが京都で撮影されたり、篠田さんの「写楽」や「梟の城」の撮影も広島の「みろくの里」です。
山本 じゃあ、作るところから限られていってしまうんだ。
浜本 そうなんです。今回は、茨城のワープステーション江戸という場所で撮っているんですが、これが出来たのも最近で。時代劇の灯を消さないためにも、頑張らなきゃと思いますね。
山本 沢山いい映画を作って下さいね。
浜本 ところで山本さん、お会いしたら聞いてみたいとずっと思っていたんですが、傳蔵は自分の出自を知っていたんでしょうか? それとも知らなかったんですか? 内野君に聞かれて「それは自分で考えろ」って逃げたけど、実は僕もわからなかったんです(笑)。お電話して聞きたいくらいでしたよ。
山本 くどいようだけど、全部自分でおやんなさい(笑)。映画「あかね空」はもう、浜本さんのものなんだから。公開が楽しみですね。
浜本 いや、もうワクワクというか、ドキドキというか。
山本 そのドキドキは、作った人間じゃないとドキドキできないからね。これは、作った人間が一人占めできることなんだよ。
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