ありがちな幽霊話だとデヴィンは思うものの、ある日、揃ってバイトの休みをとったエリンとトムと三人で〈ホラーハウス〉に入ったあと、トムが恐怖の面持ちで「彼女を見た」と告げるのを目の当たりにします。そしてデヴィンは、幽霊屋敷の幽霊の謎と、そこで殺人を犯した犯人の謎に惹きつけられてゆくことになるのです。
連続殺人犯をめぐるミステリーにキングらしいホラー風の要素も加えた本書、やはり特筆すべきは、切ない青春小説、恋愛小説として見事である点でしょう。デヴィンはのっけから恋人ウェンディとどうもうまく行っていない感じで登場しますし、この『ジョイランド』を書いている現在のデヴィンが、ウェンディに振られてしまうことを早々に明かしてしまうため、本書は恋愛の不安と失恋の痛み――誰もが一度は通過しているはずのあの気分――に彩られた物語としてはじまるのです。
そんな痛みや喪失を埋めるものとして、デヴィンは〈ジョイランド〉の日々をすごしていきます。やがて生涯の友となるトムとエリン。一緒に働く大人たち。子どもも大人も含む〈ジョイランド〉のお客たち。学生が社会の一員である大人になるまでを、スティーヴン・キングは印象的なエピソードの数々を通じて見事に語ってみせます。さきほど挙げた名作「スタンド・バイ・ミー」や、あるいは『11/22/63』、『アトランティスのこころ』といった作品に触れたことのある読者は、こうした恋愛や青春の甘やかな痛みを描くときにキングの筆がどれほど冴えわたるか、よくご存じのことでしょう。
さて、本書にはもうひと組、重要な人物が登場します。これも作品の冒頭で触れられている車椅子の少年マイクと、その母親である美しい女性アニーの母子です。この二人は物語中盤から重要な存在となってゆくので詳述を避けますが、キングのファンなら、『シャイニング』や『ファイアスターター』、『ドクター・スリープ』などで、キングが子どもを描く名手であることはご承知でしょう。ここでは、その期待は裏切られない、と言うにとどめます。
ほかにも、アニーの父をめぐる“ある事柄”とか、〈ジョイランド〉のオーナーであるブラッドリー・イースターブルック氏(キングは老人を描くのも巧い)、特殊な「言葉」で物事を鮮烈に語ってみせる手法など、いかにもキングらしい要素があちこちに埋め込まれています。キングにしては短い三百数十ページの小説ではありますが、キングらしさが全編に詰まった青春ミステリーの名品に仕上がっているのです。
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