――自由に物語りたい、ということの根っこに野田演劇がある、と。
吉田 何かその辺の自由さというのは、落語とかにも感じています。物語ることの自由さというか、話してるうちに、こっちのほうがおもしろいから適当に舞台を変えちゃうとか、そういう「適当さ」と言ったらいいかもしれないけど。
――そういえば、落語はすぐメタな位相をとりますね。
吉田 演劇からさらに遡れば、落語ですかね。実はうちの親父が落語家になりたかったんですね。そのせいで僕は子守歌代わりに落語を聞かされて育ってるんです。意識しては聴いてなかったんですけど、常に親父が聴いてたし、親父自体が落語の登場人物みたいな人だったんですよ。しゃべり方から何から。
――落語のシャワーをあびて育ったわけですね。
吉田 でも当時は、それを快く思っていなかったんで反発してたんです。それが親父が死んだあと、家に遺されたテープを聴きはじめて魅力に目覚めました。
日本人で、マンガと落語を楽しまないのはもったいないと思いますよ。マンガを楽しんでる人は多いんだけど、やっぱり落語はいいですね。昔の小説を読むのもおもしろいですけど、小説を読むより、落語を耳で聴くほうが、よっぽど物語やお話を感じます。
――落語のどんなところに魅かれますか。
吉田 落語は登場人物の飄々としたところが好きなんです。自分の小説でも登場人物がつらい目にあったり、悲しいことがあったとしても、ちょっとすっとぼけたぐらいの感じをどこかにいつでも残そうと思って書いています。今回の本では、そういう意味では「ローストチキン・ダイアリー」はかなり“飄々”があるような気がする(笑)。
落語のもうひとつの魅力は、言葉のリズムだと思うんです。実は落語って大した話じゃないんですよね。つまり、かなりでたらめでしょう。
――変な話も多いですよね。
吉田 あらかた変な話ですよ。だからお話のあらすじだけ取り上げても、おもしろさがわからない。しかしやっぱり、その言葉ですよね。言葉のリズムと心地よく響く言葉。
だから自分も、こんなお話なんだよって人に説明したときに、大しておもしろくなくていいと思っているところがあって、読んでいるときの、選ばれてる言葉と言葉の響きが、それこそ耳にして心地いいように書きたいんです。
そこが落語のいちばんの影響でしょうかね。オチがつくとか、そういうことじゃなくて、飄々としているということと、言葉の響き、言葉のリズムみたいなところ。それがうまくいっていれば、ほかのことは全然どうでもいいと思っちゃうぐらいなんです。テーマとか、何を訴えたいかとかいうのは、あらかじめあるわけじゃなくて、あとになってからなにか発見できるのがいい小説のはず(笑)。そういう物語を書きたいですね。
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