本当は怖い? 吉川圭三
ぼくはバラエティ番組の本質は、端的明快なものの連続だ、と確信するが、こんなことを指摘したら、吉川さんはどう思うのだろうか。
現在、日本のテレビはバラエティ番組が花盛り。既に述べたとおり、ぼくはあまりテレビを見ないので、ここから先は業界の知人に聞いた話を踏まえての話になるが、今隆盛を誇っているバラエティ番組には、吉川さんが過去手がけた番組が雛形になっているものが少なくないという。
例えば、ひな壇に並んだ素人の女性たちを明石家さんまさんが“料理”する「恋のから騒ぎ」は、現在のひな壇トークバラエティ番組の原型ともいえるし、あるいは「笑ってコラえて!」の中の人気企画「日本列島ダーツの旅」(これもぼくは好きで見ていた)は、その後の田舎交流バラエティ番組ブームに繋がっているように見える。彼の所属する日本テレビにおいても、はるか昔に彼が手がけた番組が生きているし、新しいバラエティ番組もそのバリエーションに思える。むろん、吉川さん自身の仕事も、諸先輩たちが積み重ねてきた業績を踏まえているわけだが、吉川さんが本書で書いたとおり、最近、そうした過去のヒット番組を凌駕するだけの画期的な新番組が出ていないのは、やはり由々しきことだと思う。
そんな焦燥感から、彼は社内の若手向けに「企画塾」と称して、通る企画書の書き方を伝授しているのも、本書にあるとおりだが、それで思い出した話がある。
日本テレビのあるテレビマンに「吉川圭三」のことを訊いたところ、「ああ見えて怖いんです」と教えてくれた。一所懸命に書いた企画書を吉川さんに持っていったら、黙ってじっと読んでから、ふっと机の脇において、そのまま一言もその企画書には触れずに、別の話をし出すというのである。この話を聞いて、意外というよりは、そうこなくちゃ、とヒザを打つ思いだった。やはり、良いモノを創り続ける人というのは、どこかでそういう鬼気迫る厳しさがあってしかるべきだと思う。
彼は「茫洋の人」ではなく、やはり「テレビの鬼」だったのだ。
蛇足だが、ぼくには本書の次に吉川さんに書いてもらいたいテーマがふたつある。ひとつは、「ヒット番組に必要なことはすべて本に学んだ」。内容は言わずもがな、だろう。もうひとつは、彼の作って来たバラエティ番組そのものの歴史である。やっぱり「テレビの鬼」の本当の姿を見てみたいからだ。
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