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活躍の場を広げる著者が、圧倒的な説得力で描く、仁義なきスクープ合戦。

活躍の場を広げる著者が、圧倒的な説得力で描く、仁義なきスクープ合戦。

文:内田剛 (書店員)

『トリダシ』(本城雅人 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『トリダシ』(本城雅人 著)

 書店員である僕が本城雅人を知ったのはいつだろうか? 本屋大賞設立以降、書店員仲間で情報共有をする機会が断然増え、いい作家・作品を薦めあうことが日常となってきた。そんな会話の中で何度となく名前が挙がったのが本城雅人だった。作品的なタイミングでいえば、やはり『ノーバディノウズ』(文藝春秋)だろう。二〇〇九年発売で第十六回松本清張賞候補作にして翌年第一回サムライジャパン野球文学賞(第二回の同賞ベストナインには『嗤うエース』が選出)大賞受賞の話題も記憶に刻まれている。ちょうどWBCにおいて侍ジャパンが二大会連続優勝で日本中が沸きかえっており、少年時代の愛読誌が「月刊ジャイアンツ」で今も「ベースボール・レコード・ブック(年度版)」を抱えて眠る、観るだけ専門の野球ファンである自分にとっても、これは追いかけねばならない作家が登場したと感じていた。

 そしてトリダシたるは本作『トリダシ』である。大藪春彦賞と吉川英治文学新人賞の候補ともなった誰もが認める本城雅人の代表作であり出世作である。主人公がスポーツ新聞の記者である本作は、まさにサンスポ記者出身であるこの著者にとって絶対優位なホームゲーム。筆力充実、全編漲っており、本城雅人の作品を何から読めばいいか?と問われれば、真っ先に『トリダシ』を推薦したい。この著者のエッセンスが凝縮された作品でもある。親本の奥付には“二〇一五年七月五日 第一刷発行”とある。オレンジ色のカバーを外せば黒い表紙が目に飛び込んでくる。ザ・ジャイアンツカラーの色合いだ。気合を入れて店頭に並べたことを確かに覚えている。さらにインパクトを与えるのは目立つオビ。大御所・横山秀夫(この方も新聞記者出身)の推薦コメントだ。

 “この作者は巧みな投手だ。

 球筋の読めない心理戦に翻弄された。”

 これ以上の殺し文句はないだろう。コメントに野球ネタを盛り込んで絶妙。『トリダシ』は七つの短編集であるが、まさに七色の魔球がごとく緩急とりまぜコントロールも最高だ。激しい掛け合いから滲み出る人間性が何とも魅力的。この小説の神髄をこれほどプロフェッショナルに言い尽くされてしまうとどんな文庫解説も無用の長物となるが、それを言ってはゲームセットとなるので続けさせていただきます。

文春文庫
トリダシ
本城雅人

定価:935円(税込)発売日:2018年04月10日

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