- 2018.07.20
- 書評
書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?
文:村上 貴史 (書評家)
『アンタッチャブル』(馳 星周 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
その姿は、公安警察官としては全くの素人である宮澤武が、公安のイロハを学び、そして椿警視という異形の上司の実力を徐々に知っていくという物語のなかにちりばめられている。尾行などの実技の面でも公安のエリートとしての才能を発揮する椿によって、本書の語り手である宮澤は、揶揄され、見透かされ、外堀を埋められ、飲食費を負担させられたりするのだ。この椿と宮澤のやりとりが、まずは本書の大きな魅力なのである。
椿は自分自身で宮澤を振り回すだけでなく、浅田浩介をも巻き込んで、宮澤を更に振り回す。といってもさすがに浅田浩介本人は動かしようがないので、その娘を巻き込むのだ。浅田千紗。三十二歳。長身。美女。宮澤を振り回すだけの要素は十二分に備わっている。そのうえ彼女は……というわけで、彼女と宮澤のやりとりや関係性の変化もまた、読み手を愉しませてくれる。
宮澤がそんな具合に公安の特別事項捜査係での生活をスタートさせて程なく、椿は、宮澤の見聞きした事項から、あるテロ計画が進行中であることを察知した。マジかよ、なのだが、そこは捜査一課で叩き込まれた上位の者への絶対的服従意識を持つ宮澤のこと、椿に逆らわず、椿の指示のもと、そのテロ計画に関する捜査を進めていくことになる……。
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