- 2018.07.20
- 書評
書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?
文:村上 貴史 (書評家)
『アンタッチャブル』(馳 星周 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
本書『アンタッチャブル』を含め、これらを是非読み比べて戴きたいものだ。馳星周の多様な凄味を堪能できるであろうから。
そしてこの二〇一八年、実は、椿警視は、あいかわらず宮澤武を振り回し続けている。『アンタッチャブル』の続篇、『殺しの許可証』の連載が続いているのである(『サンデー毎日』一七年八月二十・二十七日号から連載開始)。本稿執筆時点ではまだ完結しておらず、どんな決着になるか判らないのだが、いや、これまたとんでもない事件を椿は見つけてきたものだ。長期にわたって政権を握り続けている総理大臣が登場するのだが、彼に不都合な騒動が起きようとすると(たとえていえば加計学園を巡る騒動のようなものだ)、キーマンが不審な死を遂げるという出来事が連続し、椿がそこに事件性、つまりは陰謀を見出してしまったのである。かくして彼は宮澤を巻き込んで捜査を進めるのだが、宮澤は一方で、意識を取り戻した浅田浩介の予想だにしなかった振る舞いによっても振り回される。もちろん千紗にも振り回されるし、兼務することになった新たな部署の個性的な面々にも振り回される。そんなコメディなのである。完結と単行本化を待ちわびながらも、一方で、馳星周には、著者が愉しいと感じるがままに『殺しの許可証』を書き進めて欲しいとも思う。
実力派の作家が、プロとしての冷静な判断力を脳の片隅に置きつつ、本気で愉しんで書いた作品は、やはり問答無用で読み手を愉しませてくれるものだ。椿警視と宮澤武。彼等のコンビワークは、まさしくその代表例なのである。実をいうと直木賞の候補にもなったりしたそんな作品が、手に取ったまま踊り易い文庫本で刊行される。嬉しさの極みである。
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