- 2018.07.20
- 書評
書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?
文:村上 貴史 (書評家)
『アンタッチャブル』(馳 星周 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
■コメディ&先達
それにしても、馳星周がコメディを書くとは――。
従来の作風からすると想定外ではあったが、実際に刊行されてみると、それほどの不自然さも感じなかった。馳星周が冒険小説の読み手であり、日本冒険作家クラブのメンバーでもあったことを知っていたからかもしれない。
冒険小説『飢えて狼』で一九八一年に衝撃的なデビューを果たし、第二作『裂けて海峡』(八三年)でその圧倒的な実力を世に知らしめた志水辰夫という作家がいる。人物造形や冒険の描写に抜群の冴えを見せ、文体でも読者を魅了したこの冒険小説作家も、八四年に『あっちが上海』というコメディを放ったのである。コメディ化したこのスパイ小説を、『尋ねて雪か』『散る花もあり』という、『飢えて狼』『裂けて海峡』に連なる代表的な作品と同年に、志水辰夫はしれっと放ったのである。そのぬけぬけとした曲者作家っぷりは、一九六五年生まれで当時は大学生だった馳星周にとって、おそらく強く印象に残ったものと想像する。ちなみに志水辰夫は八八年に『あっちが上海』の続篇、『こっちは渤海』も発表している。これまた愉しい一冊だった。
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