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- 2018.07.20
- 書評
書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?
文:村上 貴史 (書評家)
『アンタッチャブル』(馳 星周 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
だが――ある出来事をきっかけに、椿のなかでなにかがおかしくなってしまった。頭の切れは従来通りだが、頭のネジは吹き飛んでしまっている模様なのだ。それは徐々に周囲にも伝わり、椿の出世はストップした。だが、公安の重要機密を知悉しているだけに組織から放り出すわけにも行かず、結果として椿は外事三課の特別事項捜査係という無任所班、換言するならば窓際部署で過ごすこととなった。とはいえ、能力は人一倍ある椿だ。“公安のアンタッチャブル”を自任し、好き勝手に行動するようになってしまった。故にお目付役が必要となる。過去のお目付役たちがそれぞれ短命に終わり、死屍累々となるなかで(比喩です)、新たにその役を割り当てられたのが、宮澤武だったわけだ。南無阿弥陀仏。
という具合に『アンタッチャブル』の紹介をしたうえで改めて念押しするが、本書はコメディである。ノワール、あるいは暗黒小説の書き手として語られることが多い馳星周の手による小説なのだが、コメディなのである。とことんコメディなのだ。
まずは、椿というキャラクターが強烈である。体格といい家柄といい経歴といい、さらにアンタッチャブルを自任する点といい、“馳星周が描く公安の切れ者”というイメージとはまるでかけ離れた存在だ。自分を“ぼく”と呼ぶし。そして、序盤で読者に提示されるこれらの特徴的な属性だけでなく、思考や言動もまた半端でなく強烈であることが判っていく――宮澤が椿に振り回される姿を見て。
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