「だったら一つ、取引しませんか? ぼくのお願いを聞いてくれたら獅子丸さんの望むよう、まともに生きますよ。お望みなら探偵にでもなりましょうか?」
「……さっさと言え」
「実はこのぼくの頭脳をもってしても解けない謎がありまして。獅子丸さんにはそれを解いて欲しいんですよ」
論語は深く息を吸うと、真剣な眼差しで獅子丸に向き直った。
「高校に上がる直前の春休み、目に怪我をしましてね。後遺症は残らなかったんですが、京都の祖父の家で療養していたんですよ。そうしたら部屋にプルミエールと名乗る女性がやってきて……ぼくは目が見えないまま、彼女の相手をすることになりました」
「フランス人だったのか?」
「さあ、どうでしょう。しかし随分と流暢な日本語を操っていましたから偽名かもしれません。一時間にも満たない逢瀬では、あれもこれもは探れませんでしたからね」
「大病院の御曹司ともなると、筆おろしも大がかりなんだな」
論語は眉を顰める。
「品のない言い方はやめていただけませんか? 第一、事実に反しています。それに……彼女は煙のように消えてしまったんですから」
「ほう?」
「誰に聞いても彼女のことなんて知らないと言うんですよ。でも、人間はそんな簡単に現れたり消えたりできません」
「もっとシンプルに考えたらどうだ。お前の祖父の愛人が偽名を名乗ったというのはどうだ? そして皆が口裏を合わせてとぼけた」
「すぐに思いつきそうなことは全部調べましたよ。帳簿まで調べましたからね。月々のお手当やあるいは口止め料と思われるような出金の形跡は見つかりませんでした」
成績優秀とはいえ、一高校生にやれる範囲を逸脱している。
「一年以上取り組んでるのにまだ解けなくて。まあ、ぼくの成長を考慮すればいずれは解けるでしょうが、流石に事件の風化速度までは読めません。そこを運に任せるぐらいなら獅子丸さんに解いて貰おうかと」
「長々と言い訳していたが、要はギブアップするということだな?」
「ギブアップしてでも真実を知りたいということですよ」
論語は煽りに動じることなく獅子丸の目をまっすぐ見つめる。
「勿論、これはキングレオを信頼してのことですよ。実際、会ったことのある大人でぼくが認めているのはあなたとプルミエールだけですから」
「……気持ちの悪いことを言うな」
獅子丸は目を逸らした。
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