十五分後、大河は四条大宮にあるミブロー湯にいた。公社にもシャワー室はあるが、そんなものでは満たされないものを満たしにやってきた。
ミブロー湯には余所より熱いサウナと冷たい水風呂がある。特に水風呂の水温が十五度以下に設定されている銭湯はあまりない。そして両者を交互に行き来する気持ち良さを知ってしまうと戻れなくなるのだ。
だからミブロー湯にはいつだって通人が誰かしら居座っている。ミブロー湯とは京都の真ん中にあるオアシスなのだ。
しかしその日のミブロー湯は人気がなかった。直前まで清掃タイムだったのだろうか、入館しても館内には客の姿が全然見当たらない。
ミブロー湯で一番風呂というのは滅多に味わえない。ありがたく堪能することにして、大河は男湯の暖簾をくぐるといそいそと服を脱いだ。
手ぬぐい一つで浴場に踏み入ると、湯気が優しく大河を迎え入れる。大河は手早く身体を洗うと、まだ誰も浸かっていない湯に身体を沈めた。
生き返る……やはり人類には熱い風呂が必要だ。
大河が湯船に浸かりながらサウナに入るタイミングをうかがっていると、一人の若い男が浴場に入って来た。
貸し切りタイムはもう終わりか……。
男はかけ湯をし、大河のいる湯船にゆっくり足を浸けて、すすすと大河の隣にやってくる。一瞬、男の意図を訝しんだが、すぐに彼がよく知った人間であることに気がついた。刈り込んだベリーショート、冷たいメタルフレームの眼鏡、そして理知的な顔……。
「あ、雹平君?」
「お久しぶりです大河さん」
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