「ぼくの依頼はプルミエールの正体と、ぼくの前に現れた理由を解明することだけです。もう会えないのならそれでも構いません。ただ真実を知って納得したいんですよ」
獅子丸はゆっくり席を立つと、そのままドアへ向けて歩き出した。だが出て行く間際に振り向くと、不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。
「オレも忙しい身でな。確約はできん。だが、その気になったら解決してやろう」
仕事が終わらない……。
会社泊四日目の昼、天親大河は静かに限界を迎えつつあった。
「はい。脚本の監修は明日の午前中にやりますので……ええ、引き続きよろしくお願いします」
何とかそれだけ言って電話を切ると、大河は長身を折り曲げるようにデスクに突っ伏す。
日本探偵公社は日本で唯一、公的に犯罪捜査に関わることを許された企業である。故に公社には様々な探偵が在籍している。そんな彼らの活躍をシナリオ化して世に広めるのが広報部脚本室だった。そして大河は普段は獅子丸の助手を務めつつ、その合間を縫ってはスクリプトライターとして広報部脚本室でキングレオシリーズの原作を書いていた。
だが、ここのところキングレオ関連のメディアミックス企画が以前よりも活発になったせいで、大河のタスクはパンク寸前だった。
獅子丸の人気が更に出るのはいいことなんだけど……。
自分の執筆だけでも忙しいのに会議や問い合わせがどんどん差し込まれる。その度、集中は切れ、やる気も失われる。上は人を増やすと言ってくれてはいるが、そう簡単にいい人材が見つかるわけでなし。結局、可能な限り大河が対応する羽目になる。
獅子丸は大河に気を遣っているのか、最近は一人で探偵の仕事をやっているようだ。まあ、大河がいなくてもさほど支障はないと思うが、それでも助手として獅子丸を助けてやれないのはいささか心苦しい。
しかしまあ、今は目の前の仕事をどうにかせねばならない。今日はあと原稿用紙で十枚ほど書けば仕上がる筈……とはいえ、このままでは無理だ。
大河は勢いよく立ち上がると、ホワイトボードに「打ち合わせ」と殴り書きしてロッカーに向かった。
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