書評

杉村三郎は見る、この世のすべてを。私立探偵としての活躍、本格的に開始!

文: 杉江松恋 (書評家)

『希望荘』(宮部みゆき 著)

『希望荘』(宮部みゆき 著)

 犯罪小説という文学ジャンルは、個人と社会とが対立する局面を犯罪という特殊な出来事によって切り取ったもの、と定義できる。反社会的な行為である犯罪は、いかなる社会でそれは起きたものか、という自己定義をその中に含むのだ。

 過去に宮部が手掛けた犯罪小説を思い出してもらいたい。失踪した女性を追ううちに、彼女が巻き込まれた事態の非人間的側面が明らかになっていく『火車』(一九九二年。双葉社→現・新潮文庫)、一つの事件の記録から現代を生きる人がいつでも嵌まりうる陥穽の形が見えてくる『理由』(一九九八年。朝日新聞社→現・新潮文庫)、異様な連続犯罪が絶対的な悪の形を浮かび上がらせる『模倣犯』(二〇〇一年。小学館→現・新潮文庫)など、犯罪がいかに行われたかの調査が、社会そのものの成り立ちを考えることに結びつく構造になっているものが非常に多い。これらの小説で扱われた大きな状況を、一人の視点から見つめ直すことが二〇〇〇年代における宮部の課題であり、杉村三郎はそのために創造された主人公だったのである。


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