- 2018.11.27
- 書評
杉村三郎は見る、この世のすべてを。私立探偵としての活躍、本格的に開始!
文:杉江松恋 (書評家)
『希望荘』(宮部みゆき 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
長篇作品に比べて、暴力の影を感じる作品が増えたのも特徴の一つだ。以前より宮部は、人生の陰惨な一面から目を逸らさず、直視することが時には必要、という態度を作中で貫いてきた。これまで作者が書いた中で私がもっとも残酷だと感じた一文は、『火車』の中にある。ある人物が辛い体験をした後に変わってしまったことが別の登場人物によって「抜け殻になって、中身の代わりに、汚い水がいっぱいつまってるみたいになった」と表現されるのだ。人が物のようになってしまう恐怖。このように犯罪によって破壊された犠牲者の姿が、あるいは人間の心を失った者が恐ろしい姿になってしまうことが、『ペテロの葬列』以降の本シリーズでは描かれるようになっている。無自覚な悪意だけではなく、明らかに他者を害しようとする者たちとも杉村は対決していくのだ。本書に収録された「砂男」、または次の作品集に収録されるはずの短篇「絶対零度」(「オール讀物」二〇一七年十一月号)などをご覧いただきたい。
人形の家を出たとき、杉村はそうした運命を覚悟して受け入れたのである。本書には、探偵としての第二の人生を送り始めた彼が、その重さを改めて痛感する姿が描かれるのだ。しかし杉村はここからさらに歩き続け、振り向くことはない。
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