- 2018.11.30
- 書評
巨匠が描く身近な恐怖とリアリティ
文:千街晶之 (ミステリ評論家)
『ミスター・メルセデス 』(スティーヴン・キング 著 白石 朗 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
さて小説の展開に話を戻すと、この事件で八人が命を奪われ、多くの負傷者が出る。だが凶器として使われたメルセデスは盗難車であり(車の持ち主のオリヴィア・トレローニーという女性はバッシングを受けて自殺した)、運転していた人物――人呼んで「メルセデス・キラー」は結局逃亡に成功、事件は未解決に終わる。捜査を担当していた刑事のビル・ホッジズは間もなく定年退職を迎えたが、その後は燃え尽き症候群に取りつかれ、自殺願望を抱えながら憂鬱な日々を送りはじめた。
ところがある日、ホッジズのもとに他ならぬメルセデス・キラーから手紙が届いた。事件の犠牲者たちを愚弄し、「ざまを見やがれ、負け犬」とホッジズを嘲るその手紙は、彼を自殺に追いやるために書かれたものだった。しかし、メルセデス・キラーにとっての誤算は、この手紙でかえって闘志を搔き立てられたホッジズが、刑事魂を取り戻して立ち上がったことだ。ホッジズは手紙を詳細に分析し、間違いなく犯人自身が書いたものであるという結論を出すと、古巣の警察には知らせず自分だけで捜査を開始した……。
こうして開幕した元刑事と殺人者の心理戦が本書の軸であり、いかにも現代ミステリらしくチャットの応酬による煽りあいが進行してゆく。ホッジズとメルセデス・キラーの関係は、前者は後者の正体を知らないが後者は前者の行動を把握している……という点ではメルセデス・キラーが有利だけれども、ホッジズには刑事時代の経験から学んだ知恵という武器があるので、両者の戦いはほぼ互角で繰り広げられることになる。
-
キングを読むならまずはコレ!
2018.05.29書評 -
〈恐怖の帝王〉スティーヴン・キング、その続編にして集大成にして新境地!
2018.01.17書評 -
タイムトラベル・ロマンスの歴史に残る名作
2016.10.18書評 -
担当編集者が教える ドラマ版『11/22/63』のここは見逃せない!
2016.08.03特集 -
感涙必至の青春ミステリー
2016.07.29書評 -
お帰りなさい、恐怖の帝王――スティーヴン・キング流ホラー、ここに再臨
2016.01.25書評
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。