- 2018.11.30
- 書評
巨匠が描く身近な恐怖とリアリティ
文:千街晶之 (ミステリ評論家)
『ミスター・メルセデス 』(スティーヴン・キング 著 白石 朗 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
メルセデス・キラーと渡り合う過程で、ホッジズには数人の協力者が生まれる。ホッジズの友人でコンピュータに通じた十七歳の高校生ジェローム・ロビンスン、自殺したオリヴィア・トレローニーの妹ジャネル(ジェイニー)・パタースン、その従姉妹で心の病を抱えたホリー・ギブニーといったあたりだ。それぞれがどのように事件に関わり、どのようにホッジズに協力するかは物語の進展につれて明かされるので、ここでは詳しい説明は避けておくけれども、特に後半はジェロームとホリーのオフビートな活躍が前面に出るので愉しい。彼らを描くキングの優しい筆致も、本書の大きな読みどころとなっている。
なお本書は、本国で二〇一七年にTVドラマ化されている(全十話)。製作は『ザ・プラクティス〜ボストン弁護士ファイル』(一九九七〜二〇〇四年)のデイヴィッド・E・ケリーで、『LOST』(二〇〇四〜二〇一〇年)のジャック・ベンダーが監督を務めているほか、コンサルティング・プロデューサーとしてミステリ作家のデニス・ルヘインが参加し、第四話の脚本も担当している。主な出演者は、ビル・ホッジズ役に『ヒットマンズ・レクイエム』(二〇〇八年)のヴェテラン俳優ブレンダン・グリーソン、メルセデス・キラー役に『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』(二〇〇五年)の双生児のトレッダウェイ兄弟の片割れであるハリー・トレッダウェイ、ジェローム役に『ムーンライト』(二〇一六年)のジャハール・ジェローム、ホリー役に『フランシス・ハ』(二〇一二年)のジャスティン・ルーペ、ジェイニー役に『RED/レッド』(二〇一〇年)のメアリー=ルイーズ・パーカーといった顔ぶれだ。また、『カクテル』(一九八八年)のケリー・リンチがメルセデス・キラーの母親に扮し、怪演を披露しているのも見どころだ。ホリーが原作より若いイメージであるといった差異もあるが、クライマックス前の展開に原作にない一ひねりが加えられるなどの工夫も施されているので、原作ファンでも一見の価値ありだ(日本では二〇一八年十月にDVD化された)。
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