気風がよくてハンサムで人懐っこく笑う寅夫じいちゃんは、信念を持って山暮らしを続けていた。働き者のフサコばあちゃんは、そんなじいちゃんにいつもやさしく寄り添った。そして孫ほども歳の離れた僕たちテレビスタッフを、ふたりは温かく受け入れてくれた。
その山は戦後の貧しい時代に、自分たちの手で切り開いた。一度は都会へ出たものの、還暦を過ぎてからまた不便な山に戻り、夫婦ふたりで生活していたのだ。
しかし、それにしても……
取材と放送を重ねるたびに、僕は自問自答を繰り返した。
なぜ、通い続けるのだろう――
なぜ、取材をしながら、熱いものがこみ上げるのだろう――
なぜ、編集をしながら、涙が止まらないのか――
なぜ、原稿を書きながら、嗚咽するのか――
そこに何があるのか――
今も取材を続けるその山を、僕たちは「ふたりの桃源郷」と呼んだ。
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