『ふたりの桃源郷』(佐々木聰 著)

 当時じいちゃんは87歳。ばあちゃんは82歳。その歳になっても仲良くいられるふたりに、尊敬の念もこめて伺った。

 しかし、返ってくる答えはいつも同じで、テレビのインタビューとしては使いづらい内容だった。別の答えを期待して次の取材でも、また同じことを聞いてしまう。でも、判で押したように同じ答えが返ってくるのだ。

「夫婦円満の秘訣は何ですか……?」

 するとじいちゃんは、決まってしばらくの間、唸った。

 

「……うーん……、……そうじゃのぅ……、……うーん……」

 

 そして、こちらを真っ直ぐ見つめると、今思いついたかのように大真面目な顔で……

 

「……そりゃぁ……セックスじゃのぅ……」

 

 何度聞いても答えはいつも同じだった。

 そのうち僕は、別の答えを引き出すのをやめた。無意味だと気がついたのだ。なぜなら寅夫じいちゃんは、心からそう思っているからだ。

 夫婦円満の秘訣は、セックス――

 じいちゃんが大真面目に「セックスじゃのぅ」と答えている時、フサコばあちゃんはいつもすぐ横ではにかんでいる。

 本当に素敵な夫婦だ。

 

 この話には後日談がある。

「ばあさんやぁ、少々痛うても辛抱せんにゃぁいけんのぅ……。散髪と言うても、タダじゃけぇのぅハハハハ……」©山口放送