別冊文藝春秋

『空を拓く』門井慶喜――立ち読み

文: 門井 慶喜

電子版28号

「別冊文藝春秋 電子版28号」(文藝春秋 編)

 このたびの調査会の発足にあたり、金吾がまるで七年前のことなど忘れたかのように、

「どうだ矢橋君。委員には君も入らんか」

 と声をかけてくれたのは、しかしたぶん師の弟子への愛の故ではなかっただろう。それも少しはあるにしろ、いちばん大きいのは権力固め。いくら妻木が死んだとはいえ、調査会という砦はがっちりと自兵でまもらねば、いつまた第二の妻木があらわれるかもしれぬ。

 議事堂づくりを邪魔するかもしれぬ。賢吉は年長者には従順だから、

「はい。よろこんで」

 結局のところ、委員の顔ぶれは、ほかは塚本靖、横河民輔、山下啓次郎だった。金吾はにこにこと、

「辰野一門だ」

 もしくは、

「俺が、親方だ」

 などと相撲になぞらえてうそぶいたし、大蔵大臣へもそう言った。或る意味、空恐ろしいほどの無邪気さだった。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版28号(2019年11月号)文藝春秋・編

発売日:2019年10月18日


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