このたびの調査会の発足にあたり、金吾がまるで七年前のことなど忘れたかのように、
「どうだ矢橋君。委員には君も入らんか」
と声をかけてくれたのは、しかしたぶん師の弟子への愛の故ではなかっただろう。それも少しはあるにしろ、いちばん大きいのは権力固め。いくら妻木が死んだとはいえ、調査会という砦はがっちりと自兵でまもらねば、いつまた第二の妻木があらわれるかもしれぬ。
議事堂づくりを邪魔するかもしれぬ。賢吉は年長者には従順だから、
「はい。よろこんで」
結局のところ、委員の顔ぶれは、ほかは塚本靖、横河民輔、山下啓次郎だった。金吾はにこにこと、
「辰野一門だ」
もしくは、
「俺が、親方だ」
などと相撲になぞらえてうそぶいたし、大蔵大臣へもそう言った。或る意味、空恐ろしいほどの無邪気さだった。
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