松本清張賞受賞から始まった「朝顔同心シリーズ」。最新作「菊花の仇討ち」刊行を記念して、受賞直後の貴重なインタビューを再掲載。
ブロック遊びと浮世絵
――松本清張賞受賞作『一朝の夢』の最大の魅力は、朝顔を愛する同心・中根興三郎の造形です。朝顔に着目されたのはなぜですか?
梶 ほんとにつまらないきっかけですけど、お花が好きで、江戸時代のガーデニングを調べていくうちに、文化の時期、幕末と、二度大きな朝顔ブームがあったことを知ったんです。いろいろ史料を読むと、漏斗(ろうと)状の丸咲きの朝顔だけではなくて、様々に種を掛け合わせて作る変化朝顔というすごいものがある。これは現在でも市が開かれるほど根強い愛好家のいる分野で、これをモチーフにして何か書けないか、というのが最初のきっかけでした。
――オランダのチューリップ熱みたいですね。
梶 まさしくそうで、ひと鉢の朝顔が十両などという高値で取り引きされていたようです。作中にも出てくる留次郎という植木屋は実在の人物で、ものすごいお金を好事家から集めて大坂まで買い付けに行ったりしている。面白いのは、朝顔の花を寒天で固めたものを持って「この朝顔の種があるんだけど、どうだ?」と愛好家たちのもとへ売りに行くというんですね。
――ドライフラワーのように、花だけを取って寒天漬けにして保存する。
梶 そうです。花は一日で枯れてしまうし、写生したものだと本当に実在するかどうか分かりませんから。なにより朝顔がすごいのは、一部の愛好家の趣味の対象になっていただけではなく、庶民の日常の風景の中にあったり、団扇や着物に描かれたりと、とにかく広く普及していたところです。
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