梶 それで中村吉右衛門さんが『鬼平』をおやりになっているときに、私、吉右衛門さんの大ファンになりまして(笑)。実は今回の作品にも通じるんですけれども、歌舞伎に『井伊大老』という演目があって、吉右衛門さんが演じられた井伊直弼が人間味に溢れていて、とても素敵だったんですよ。で、今回の作品の中で、モデルと言ったらほんとに僭越なんですけれども、やはり吉右衛門さんの『井伊大老』のイメージが常に頭の中にありました。
――映像的なものが発想の根本にあるんですね。
梶 そうかもしれません。あとは浮世絵ですね。美術系の学校に行っていたとき、浮世絵に関する文献がたくさんあって、学生時代、本当に夢中になりました。浮世絵に描かれた風景を想像するのが好きで、絵を立体的に自分の中で作り直したりするんです。深川江戸資料館は佐賀町の町並みを少し縮小して再現しているんですけど、そこに行って、ボーッとしたりするのも好きで……。
――風景を想像する、というのは?
梶 浮世絵に描かれた町の様子とか、江戸の地図などをぼんやり眺めながら、おお、ここに三井があったんだとか、頭の中に立体的な風景を立ち上げていく。意味もなくそういう時間を過ごすのが好きなんです(笑)。
――女の子がドールハウスを眺めながら、自分の将来の生活を想像して遊んでいるようですね。
梶 じつは最近娘と話していて思い出したんですが、たしかにそういう遊びが大好きでした(笑)。しかも、リカちゃんハウスじゃなくて、レゴみたいなブロック遊び。それで何軒もお家を作って、住んでいる人もブロックで。小さいブロックを二つ積み重ねて人に見立てて、このブロックはカッコいい人、と決めたりして、遊んでいました。だから、常に頭の中でいろんな妄想を……(笑)。
――梶さんの映像的な描写力の秘密が分かったような気がします(笑)。