歴史小説とリアリティ
――『一朝の夢』は安政の時代が舞台です。朝顔を愛でるボ~ッとした同心というほのぼのとした市井物の佇まいと、そのぼんやりした同心が開国か攘夷かに揺れる政変の渦に巻き込まれてゆくという歴史物のダイナミックさとの対比が面白い、非常に構えの大きな作品ですね。
梶 井伊直弼が大変な苦労をしている一方で、有力者たちが朝顔の花合わせに興じていたりもする。人ってどんなことがあってもけっこう飄々と逞(たくま)しく生きているものなんだなあと、当時のことを調べていて思いました。わずか二十年ほどの間に様々なシステムがひっくり返るというのに、庶民は淡々と生活しているし、みんな夢中で朝顔を育てていた。
――朝顔のとりもつ縁で、井伊直弼と水戸藩士、そして一介の同心が行動を共にするという奇妙なシチュエーションが出てきたりします。
梶 歴史小説のリアリティを厳密に考えれば、実際にはあり得ないことだと思います。しかし、桜田門外の変で井伊が首を刎(は)ねられるという絶対的に動かせない歴史的事実までの過程で、たまたま井伊大老と水戸藩士が出会ってしまったらどうなんだろう、あるいは大老とただの同心が出会ったら、どんな話をするんだろう……。そういう一瞬の夢を描いてみたかった。『一朝の夢』という題名にその願いを託したわけで、選考委員の夢枕獏さんが「時代小説はこの世にない世界を描くファンタジーとしても読める」と仰ってくれたと聞いて、救われたと思いましたし、とても嬉しかったんです。
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