- 2019.12.14
- 書評
「この本がなければ私は小説家にならなかった」
文:窪 美澄 (作家)
『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
本は好きだったけれど、系統立てて読書をしてきたわけでも、圧倒的な読書量があったわけでもない。ライターをしていて、自分の文章はお金になる、と思ってはいたが、それも「こういう記事を書いてほしい」というテーマに正確に文章を投げ返すことができるだけで、一生続けていける仕事ではないだろうと思っていた。
私はもしかしたら小説を書きたいのではないか。
そう思いながらも、何度も首を振った。そんな力があるわけがない。それでも書かねば、と思ったのは、ライターとしての仕事だけでは、子どもの大学進学も叶わない、と思ったからだ。ライターと小説、ふたつの仕事を続けていけば、最低でも四年間の学費はまかなえるのではないか。
「どうして小説を書こうと思ったのですか?」という問いに「お金が欲しかったからです」と答えて、取材者に苦笑いをされることにはもう慣れてしまったが、正確に言えば、お金だけが理由ではない。
自分のなかに大きな岩のようなものがごろんとある。表面はもうすっかり冷めてはいるが、その内部にはどろりとした高熱のマグマのようなものが詰まっている。これを吐き出さないと、形にして残さないと、私は死ぬときに大きな後悔をするのではないか。そう思った。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。