- 2019.12.14
- 書評
「この本がなければ私は小説家にならなかった」
文:窪 美澄 (作家)
『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
東大卒、大手出版社勤務、高年収、自分とはまったく違う立場にいる主人公。三人の女性とかかわりながら、その誰とも一定の距離を置いている。彼が発する言葉や思索は理屈っぽく、粘着質で、到底好きにはなれない。それなのに、この本を読み進めてしまうのは、タイトルのせいだ。『僕のなかの壊れていない部分』。それを探したくて、ページをめくる手が止まらないのだ。
最近、私のなかで頭をもたげているのは、こんな疑問だ。
「世の中の人は物語を本当に求めているのか?」
書店のいちばんいい席で表紙を見せている本を数冊読んでみる。読みやすく、希望のもてるラストシーン、思わず涙が滲むようなカタルシス。批判はできない。自分だって編集者にそういう物語を、と依頼され、書いたことがあるからだ。もちろん、そんな本があってもいい。けれど、私の心が満足しないのだ。
小説とはただの文字の羅列であるのに、ガツンと殴られるような衝撃が欲しい。あなたが本当に考えていることはこれだ、と血まみれの何かを差し出してくれるようなものを読みたい。そんな希望をこの本は叶えてくれるし、書き手としても本書を読むと勇気づけられるのだ。書いていい。何度もそう言われているような気持ちを抱いた。小説を書く前に読んだときも、改めて読み返してみた今も、その気持ちに変わりはない。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。