「読み書き」は、孤独や不安を追い払う
文章にはだれかに読んでもらうために書くものと、自分のためだけに書くものとふた通りがあります。作家はだれかに読んでもらうために本を書きます。
しかし私には、しばしば耳にする気になることばがあります。「作家と読者は作品でつながっている」ということばです。しかしこれは誤解です。作家と読者が作品を通して直接つながることはありません。本はネットのようなつながり感を保つメディアではないからです。
もちろん読者が作家にシンパシーを覚えたり、また作家がファンである読者をたいせつに感じたりするということはあります。しかしそれは、作家という個人、読者という個人の「つながり」ではありません。書物とは書き手と読み手が、直接的につながることができない、きわめて個人的な想像力の世界なのです。
むしろ本がすぐれているのは、安易に手に入るつながり感などを、まったく約束していないことです。書き手と読み手の想念は、その作品によって自分の内部に生まれた世界でそれぞれ完結している。だからこそ「読み書き」はすぐれた個人救済の手がかりとなる。
孤独感は自分の心の中にあります。一見、人づきあいがよく社交的に見える人でも、内面には深い孤独感をかかえていることもある。孤独は他者にはみえない、その人の内面に潜んでいる。一方、「読み書き」で生まれる思考や想像もまた、その人の内面に宿るもの。それは自分の力で生みだした創造のたまものです。あなたの内面から孤独や不安や怯えを追い払い、「読み書き」によるあらたな考えやイメージで自分の内面を満たす。それはけっして不可能なことではない、と私は信じています。
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