まったく新しい読書体験を

道尾秀介『いけない』(文藝春秋)

司会 道尾秀介さんの『いけない』(文藝春秋)が6位に入っています。謎解き要素の強いミステリーですが、SNSでも大きな反響があってベストセラーになりました。『いけない』の特徴は、各章の終わりに地図や写真、図版が掲載されていて、物語とビジュアル要素が組み合わさってひとつの作品になっている点ですね。

N たとえば第一章の「弓投げの崖を見てはいけない」は、自殺の名所近くのトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招くというスリリングな展開を見せます。ところが丹念に読んでいっても複数の解釈を許すような書き方がなされていて、特に結末については、死んだのは誰なのか、おそらく3通りの結末が考えられると思うんです。いわゆるリドルストーリー(謎に対して明確な答えを与えず、解釈を読者にゆだねる物語)に思えるんだけれども、さらにページをめくって最後に載っている地図を見て、あらためて考えると……。

 答えが見えてくるんです!

N そうそう! でも、はっきり答えが書いてあるわけではないので、自分で推理しないといけない。だから自分の解釈が合っているのかどうか気になるんです。それで思わず「答え」を検索してしまったり、友人に「どう思った?」と聞いたりする。「面白かった~」で終わらせず、そこからさらに読者参加型のような構成をうまくつくり出せたのが成功した理由かなと思います。何よりすごいと思うのは、ビジュアル面での新たな試みをしたことで、小説自体のミステリー純度が、道尾作品のなかでも相当に高くなっていること。これ、簡単にできることじゃないですよ。よほど入念な準備をしないと。

 道尾さんがインタビューで言ってることですけども、いま、本がスマホに負けている。だからといって「読書しろ」と説教じみたことを言ってもダメで、小説自身がもっと読まれるように変わっていかないといけないと。今回の『いけない』で、読者にまったく新しい読書体験をしてもらえるはずだ、とも。

 すばらしい! 見事に成功していると思いますよ。

【『人格転移の殺人』プラス『七回死んだ男』】