- 2019.12.28
- インタビュー・対談
冬休みの読書ガイドに! 2019年の傑作ミステリーはこれだ! <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2019年の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
科学捜査の天才vs.ダイヤモンドキラー
司会 10位のジェフリー・ディーヴァー『カッティング・エッジ』(文藝春秋)に行きましょう。
N 事故でほぼ全身が麻痺した科学捜査の天才、リンカーン・ライムが活躍するシリーズの第14弾です。ライムと、彼の手足になって実地の捜査にあたるアメリア・サックスという赤毛の女性刑事がコンビを組んで、複雑怪奇な犯罪をもくろむ怪人と戦いを繰り広げる人気シリーズですね。今回の舞台はニューヨーク、マンハッタンの中心部。ダイヤモンド地区と呼ばれる一帯です。そこのダイヤモンド店の1つが何者かに襲われ、婚約指輪を買いに来ていたカップルと店主が殺される。その捜査にライムたちが加わるんですが、事件現場から逃げた青年がひとりいて、彼の証言が捜査の突破口になると思われ、捜査陣は彼の行方を捜すけれどもなかなか見つからないんですね。いっぽう謎の犯人は、ダイヤモンドを買おうとするカップルや、指輪をしている女性をどんどん襲っていく。どうやら犯人は、ダイヤモンドに対して妄執をもっているらしい。ライムたちはそのダイヤモンドキラーを追い、同時に行方不明の目撃者を探していくという展開になります。
I 殺人犯がカップルを襲いながら、ダイヤモンドの原石至上主義を唱えるところが面白かったですね。天然のダイヤの原石を人間の我欲によってカットする行為は、神に対する冒涜なんだと。
K わあ! それは面白そうですね。ダイヤモンドへの変な愛と執着!
N もうひとつ、ここまでは展開を明かしてもいいかな。捜査の途中で地震が起きるんです。マンハッタンって基本的に地震の起こらないエリアなんですけど、連続して地震が発生して、文字どおりニューヨークを震撼させる事件へと発展していくんですね。この地震とダイヤモンドキラーとの関係やいかに!? このところのリンカーン・ライムシリーズって、前作はイタリア出張編だったり、いろんな可能性を試しているような気配があったのですが、今回の『カッティング・エッジ』は王道である怪人対名探偵の構図、さらにどんでん返しの連続で物語が進んでいく原点に回帰した感じがします。シリーズ作品はたくさんありますけど、ディーヴァーはどこから読んでも問題ない作風なので、しばらく読んでなかった人、初めての方にもおすすめできる作品ですね。
I 今回はどんでん返しがいっぱいあって満足しました!
N そういえば冒頭から逃げ続けている目撃者のキャラクターもユニークで、宝石職人志願のインド人青年なんだけど、ダイヤのカッティングが天才的に上手いんですよね。
I そうなんです。依頼主から原石を5つの普通のダイヤにカットしてくれと頼まれる場面があるんですが、彼はこの原石にそんなことをしたら可哀想だと。この石はこの大きさのまま平行四辺形にカットするのが一番だと主張し、結局カットを成功させて、伝説的な名ダイヤモンドが誕生するんです。そういったサイドストーリーが楽しいうえに、どんでん返しもきちんと炸裂するから最高ですね。
司会 では、最後にランキング全体の印象を聞きましょうか。
K 『屍人荘の殺人』でブレークした今村昌弘さんの2作目『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)はじめ、相沢沙呼さん『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)、青柳碧人さん『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)、本格ミステリ大賞を受賞した伊吹亜門さん『刀と傘』(東京創元社)といった新しい才能が続々ランクインして、きちんと評価されているのはすばらしいなと思いました。
I 髙村薫さんの『我らが少女A』(毎日新聞出版)や、東野圭吾さん『希望の糸』(講談社)も入っているし、ベテランから若手まで、バランスのとれたベスト10ではないかと。
司会 『ノースライト』『罪の轍』はともに新潮社のワンツーフィニッシュ。秋には小野不由美さんの「十二国記」シリーズの新作『白銀の墟 玄の月』(新潮文庫)も出たばかりだし、2019年は新潮社の年といえますね。海外は文藝春秋が強かったかな。
N 国内に負けず、海外ミステリーも傑作ぞろいですから、お正月休みなど時間のあるときに、ゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいですね。
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