![固有の物語を丁寧に紡ぐ小説](https://b-bunshun.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/1500wm/img_8d7b78c75fcc4e2cef7d653988a451101087403.jpg)
妻との間の、出会った日から近づいていった距離。どう看病すればいいか迷うたびに少し離れたって、思いきって爪を切らせてもらえば、〈ぷちんぷちんという音に夢中になる。ぎょっとするほど楽しい。この愉悦はなんだろう。好きな人の爪を切るというのは、こんなにも面白いことだったのか〉と、すぐに縮まる距離。「来たよ」「来たか」と片手を挙げあっていたのに、頭を下げて手を合わせなくてはならない、〈神様に対峙するように〉向かい合わなくてはならない存在になってしまった妻との距離。死後の時間が進むにつれ、離れていく一方に感じられる距離。でも――。
〈近いことが素晴らしく、遠いことは悲しいなんて、思い込みかもしれない。
今は、離れることを嫌だと感じている。でも、嫌でなくなるときが、いつか来る。そんな予感がする。その予感が流れてくる方向に視線を遣ると、僅かな光がこぼれていた〉
人との距離は、生きている間だけでなく、たとえ相手が死んだ後でも動き続ける。それが、人と人をつなぐ“美しい距離”なのだ。動き続ける関係こそが愛なのだということを伝えて胸を打つ。
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