小説によって、各人が自らの置かれた社会的、心理的状況を知るのだ。小説によって、作品中の人物の生き方を追体験することによって、自分を相対化することができる。優れた小説は、例外なく、複数の読み方が可能だ。どんな言葉や出来事にも、自分にとってプラスになる事柄とマイナスになる事柄が含まれている。このリアリティをつかむことが「勉強の哲学」を体得した人には可能になる。
言葉のリアリティをとらえることができるようになると、仕事に対する態度も変化する。
〈仕事では外からの要請に従わなければならない。でも、そのなかで、「もうひとつの意識」を持つこともできる。仕事において経験する出来事も、アイロニーとユーモアを交差させながら捉えれば、文学的なものに見えてくる。仕事で目に入る場面を、写真的あるいは映画的な場面と見ることもできる。そういう芸術的意識は、仕事で押しつけられる価値観に単純に巻き込まれず、距離を取って状況を見るということに他なりません〉(239頁)
仕事にのめり込んでしまい燃え尽きてしまうことを避けるためにも、アイロニーとユーモアを体得することが重要になる。その意味で『勉強の哲学』は究極のビジネス書なのである。
(2019年12月15日脱稿)
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