
――この世は苦に満ちた、苦の世じゃ。されど、同時にひとが清く生きる浄土でもあろう。
――ひとは無惨に散らされるばかりかもしれぬ。しかし、それにたじろがず、迷わず生き抜くことにひとの花があるのです。
胤舜の曾祖母のこの言葉を初めて読んだ時、私は二十世紀の伝説的歌手の一人であるフランク・シナトラの代表曲、「Thatʼs Life」を思い出した。「Some people get their kicks stompinʼ on a dream. But I donʼt let it, let it get me down. ʼCause this fine old world, it keeps spinninʼ around.(夢を踏みつける人もいるけれど、僕はへこたれない。落ち込んだりしない。だって、この古き良き世界はいつも回り続けるのだから)」――それはまさに、葉室麟の描く「花」の世界そのものだ。
包み隠さずに打ち明ければ、葉室さんのいないこの世界はいささか味気なく、空の色が少しだけ褪せて映る。だがそんな寂しさがあればこそ、この世には美しい花が開き続ける。
そう、人は何があろうとも生きねばならない。まさにそれが人生なのだから、という世々不変の真実を『嵯峨野花譜』は教えてくれる。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『猪牙の娘 柳橋の桜(一)』佐伯泰英・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2023/06/07~2023/06/14 賞品 『猪牙の娘 柳橋の桜(一)』佐伯泰英・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。
イベント
ページの先頭へ戻る