ふだん劇場でやっているような試みを、この本でしようとしているんだ。いや違う。そんな単純に振り分けられるものじゃない。じゃあ何だ。又吉さんの考えの核の部分にあるものを、何と言葉で捉えたらいい……?
当時のメモ帳を見返すと、又吉さんのアイデアをとりこぼさないように書きとめ、解釈しようと必死だった、自分の姿が生々しく蘇ります。
年末には編集に九龍ジョーさん、デザインに佐藤亜沙美さんという座組みが決まりました。
九龍ジョーさんは、“面白い作品や現場にこの男のクレジットあり”という存在でした。文学、音楽、お笑い、伝統芸能まで、カルチャーの垣根を軽やかに越えて渡り歩き、まさに「足」で新しい才能を探す。そしてそれを編集することでそこに光を当てる仕事ぶりには、畏怖にも似た尊敬がありました。
又吉さんの長編小説『人間』の担当編集者でもあり、2007年の時点で又吉さんの文才にいち早く気づき、『hon-nin』の原稿を依頼した目利きでもあります。
「木村さんは本を作れる人にもなっといたほうがいいと思いますよ」という又吉さんのアドバイスの先に、まっさきに浮かんだのが、彼でした。
ブックデザイナーの佐藤亜沙美さんは、制限の多いオーダーであるほど研ぎ澄まされるセンスに以前から注目していました。その出どころはなになのか。その理由をどうしても知りたくなって、みなとみらいBUKATSUDOで企画している講座『企画でメシを食っていく』「デザインの企画」のゲスト講師をオファーしたこともあります。受講生への課題「梶井基次郎の『檸檬』の装幀を考えなさい。日本の現状のブックデザインに抗うかたちにしてください」に対して、佐藤さんはご自身でも回答を提出されました。そしてそれはおそらく誰よりも時間をかけてデザインされた装幀でした。
「自分が作っているものが誰の目に触れてどこに届いているのかという曖昧さ、大勢に伝えることの不確かさが心許なくて、迷っていた」という、広告会社での経験を経てブックデザインの道に進まれた経歴にも、今回の企画と通じ合うものを感じました。「頭より目のほうが賢い」と語る佐藤さんが、又吉さんの文章をどうデザインするか、見てみたいと思いました。
お正月が明けるのを待って、いよいよ制作がスタート。そして約2カ月後――。
『Perch』が誕生しました。
1月17日から2月17日までの一カ月間で、又吉さんから届いた原稿は30000字を超えていました。
「何を作ろうとしているのか」その意図を言葉で解釈しようとしていたかつての自分は、いかに無粋だったのか。恥ずかしくなるほどに、又吉さんの文章をダイレクトに浴びている時間は純粋に楽しく、その物語を受けて、自分にとって大切な人や場所の記憶が立ち上がる体験は幸福に満ちていました。
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