今年で第100回の節目となるオール讀物新人賞(2007年にオール讀物推理新人賞と統合)。
受賞以来、活躍を続ける2人の作家がデビューまでの軌跡を語ります。
木下昌輝(第92回受賞『宇喜多の捨て嫁』)
大学はあえて理系の道へ
僕が最初にオール讀物新人賞に応募したのは、二〇一一年です。当時、関西でフリーライターをしていたのですが、仕事が減っていたこともあり、一年だけ投稿生活を頑張って続け、そこで勝負してみようと決めていました。
もともとこの道を目指したのは、高校時代バレー部で交換日誌をやっていて、そこで書いた雑文を、皆が「おもしろい」と言ってくれたことがきっかけ。本好きの友人に「小説家になりたいんだったら、自分の引き出しを増やせ」とアドバイスされ、あえて文系ではなく理系の建築学科に進み、ハウスメーカーで会社員生活も経験しました。その後、ライターになったのも色んな人の話を聞くことで引き出しを増やしたいと思ったからです。
周囲の反対を押し切って会社を辞め、まず文章修行のために通ったのは、小説ではなくライター養成のための学校でした。そこの講師の先生に「すべての物語はAからBになる、つまり主人公の価値観が変わるのが小説だ」と教えられたことが大きな気づきになりました。確かにどんな物語にも通じるメソッドで、以来、映画やドラマを観る時にはAがBにどう変わっていくのか分析するようになりました。
このノウハウが溜まったところで、今度は小説を書いてみたら六十枚くらいのものが完成したんです。この作品が果たして面白いのか……そんな時に合評形式で作品の感想や批評をしあう大阪文学学校のことを知りました。早速そこへ通いはじめ、作品を提出してみたところ、田辺聖子さんとかつて同期だったという担当講師(チューター)の方から「君は頑張ったら直木賞を獲れる」と言われ、根が単純なのですっかりその気になりました(笑)。同じクラスの人からも「オール讀物新人賞が向いているんじゃないか」と勧められ、昭和から平成初期にかけてのテレビ職人の話を書いた「タイトルさん」という作品を応募してみました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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