直木賞は絶対に獲りたい
こうしてようやく二年がかりで上梓した『宇喜多の捨て嫁』は、信じられないことに直木賞候補にもなりました。候補になった時、大阪文学学校の先輩でもある朝井まかてさんに「直木賞候補になったんですけど、何かやっておいた方がいいことはありますか?」と相談したところ、「まあ、何もない」と(笑)。けれど、続けて「木下君が候補になったっていうことはこの世界でどういう風に生きていくかを考える機会を与えてもらったっていうことだと思うよ」と言ってもらい、この言葉で作家として専業でやっていく決心がつきました。
兼業でないと食べていかれないという心配もあったんですが、直木賞の候補になったことで、十社以上の仕事の依頼が増えたのでそれもびっくりしました。新人賞を獲った時には人生が変わったとは思いませんでしたが、僕は直木賞の候補になったことで本当に人生が変わったと思っています。
自分が考えていたより順調に作家として歩んでこられたけれど、作家になる以前に想像していたのと違ったのは、どの作品も書く時に苦しいこと。キャリアを積めばもっと楽に書けると思っていましたが、どう書き出したらいいのか、どう書き進めたらいいのか常に悩みます。
さらにデビューする前と後とで違うのは、やはりプロの作家の方はいずれも底知れない努力をしているんです。僕から見るともともと才能に恵まれているうえに、努力を努力とさえ感じずに楽しんでいるような方もいる。作家業がこんなに大変な世界だとは思いませんでした。もちろんそういった作家の方の話を聞くのは楽しいし、最新作の『まむし三代記』を一度連載を終えてから、すべて書き直したのも周りの刺激によるところが大きいです。
単行本でデビューしてから六年目になりましたけど、作家を本気で目指したのは、やはり大阪文学学校で「直木賞を獲れる」と言われたからです。その言葉は本当に僕に夢を与えてくれたし、あの時、声をかけてくださったチューターの方に恩返しをする意味でも、直木賞は絶対に獲りたい(笑)。それにふさわしい作品を書けるように頑張っていきます。
木下昌輝(きのした・まさき)
1974年奈良県生まれ。近畿大学理工学部卒。2012年「宇喜多の捨て嫁」で第92回オール讀物新人賞を受賞。本作は15年、高校生直木賞、舟橋聖一賞、高校生直木賞、さくやこの花賞を受賞。19年には『天下一の軽口男』で大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で野村胡堂文学賞を受賞。『人魚ノ肉』『天下一の軽口男』『宇喜多の楽土』など著書多数。
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