受賞作は10日で執筆
山村教室では受講者同士の合評は禁止なんです。受講生が書いた作品を冊子にまとめたものが配られて、それを講師が講評するのを生徒みんなで聞くスタイルです。素人同士で批評しあうと辛辣になりすぎたり、作品論でなくなったりすることもありますから、このスタイルは自分に合っていたと思います。自分の作品だとダメ出しされたり批評されたりしても素直に聞けなかったりしますが、他の人の作品に対する講評だと、冷静に聞けるし、指摘されたことは自分の作品にも落とし込める。他の人の作品に対する講評のほうが、よく聞けるんですね。これは勉強になりました。
私が書いていたのは短篇が多かったので、短篇の公募を中心に応募していました。オール讀物新人賞は三回最終候補に残ったのですが、その前にも二、三回は応募していたと思います。受賞作となった「虫のいどころ」(「男と女の腹の蟲」から改題)の執筆期間は十日くらいです。山村教室に課題を提出するときも、だいたい締切の一週間くらい前になって慌てて書き始めていたので、いつも通りといえばいつも通り。今でも、締切前はこんな感じです(笑)。
「虫のいどころ」は、同居している恋人が花粉症治療のためにお腹にサナダムシを飼うと言い出して――というストーリーですが、当時、裏サイトなんかで実際にサナダムシ入りのカプセルが売っていたんです。体内に自分ではない生物がいるというのが面白いなと思って、それと妊娠のイメージを重ね合わせて書きました。
この時は他にもう一作応募していて、それがデビュー作となる短篇集『コイカツ 恋活』(のちに『こじれたふたり』として文庫化)にも収録されている「かげろう稲妻水の月」です。こちらは、女性が虫を踏み潰す姿にしか興奮しない大学教授と、ひょんなことからその欲望を満たしてあげることになる女子大生の話なのですが、後に編集部から聞いた話では、どちらを最終候補に残すかでちょっと議論になったようです。
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