原稿に行き詰まったら“音読”
デビューから十一年になりますが、ずっと、自分のキャパシティを超える依頼に対して、何とか応えようとするうち、無理矢理にキャパシティを広げてもらっているような感覚です。元が怠け者なので、人に言われないとなかなかやらないんです。今は「居酒屋ぜんや」シリーズや、「オール讀物」でも「江戸彩り草紙」シリーズを書かせていただいていますが、もともと、時代ものを書こうと思っていたわけではないんです。「いずれ、五十歳を過ぎた頃にでも書いてみたいな」と漠然とは考えていたのですが、その前に依頼が来てしまった。なので、まだ何の準備もしていなくて、勉強が大変でした。今も、戦国ものに挑戦しようと苦戦している最中です。
子どもの頃から愛読しているのは、宮沢賢治の「やまなし」。昔から、たまに取り出しては音読しています。締切に追われて、読書をする時間もあまりとれないまま自分の文章にばかり向き合っていると、自家中毒のようになって、自分の文章がいいのかどうか、判断がつかない状態になってしまうんです。そんな時は、「やまなし」を声に出して読むとちょっと落ち着きます。あとは、大学の卒論でも扱った谷崎潤一郎が好きで、特に「蘆刈」という短篇は、いまでも読み返しますね。
坂井希久子(さかい・きくこ)
1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。2008年「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。他の作品に『羊くんと踊れば』『こじれたふたり』『泣いたらアカンで通天閣』『ヒーローインタビュー』『ただいまが、聞こえない』『虹猫喫茶店』『ウィメンズマラソン』『ハーレーじじいの背中』『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』などがある。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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