- 2020.10.01
- インタビュー・対談
サイゼリヤでバイトする“異色の一つ星シェフ”が、いま絶好調な理由とは? コロナ時代をタフに乗り切る異才に、注目のSF作家・小川哲が迫る
聞き手:別冊文藝春秋
「村山太一×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.1[ダイジェスト]
村山 いまのところほとんど感じていません。さっきも言いましたけど、うちはいま、マックスの四人ではなく、三人で営業できる体制でやっています。つまり、毎日、プラスアルファの四人目がいるという状態だから、新しいことにもすぐ手を伸ばせた。この余力と、サイゼリヤで吸収させてもらった業務効率化とオペレーションに財務改善策。これでラッセは、前年比八〇%になったら潰れるといわれる飲食業界において、この五月を、前年比四八%、それでも一一万円の黒字という状況で乗り切ることが出来た。超筋肉質な店舗経営が出来るようになってきたんだと思います。
小川 ほんと、まさに理想的ですね。最後にひとつお聞きしてもいいですか。そこまで突き詰めた後、村山さんがやりたいこと、目標にしていることとは、どんなことなんでしょう。
村山 少なくとも、三つ星を取りたいとか、世界中に店舗を出したいとか、そういうことではないですね。この後、二つ星レストラン、三つ星レストラン、それぞれの収益体制やビジネスモデルをつくってやっていくという選択肢はいまはない。今回のような感染症だったり、あるいは災害だったり、いつ何が起きるかわからない世界に僕たちはいます。そうした変化にいち早く対応していく、「変わっていけるレストラン」でありたい。その時々に求められるものに応える総合力を持っていたい。
小川 なるほど! 変わっていく世界に合わせて柔軟に、新しいアイデアをどんどん出していくほうが村山さんには合っているんですね。
村山 だって、これから地震だって、洪水だって、また起きるでしょう。世界がガラッと変わったときに、店舗のなかだけ整えてお客さんを待っていても仕方ない。そういう時こそ、もともと持っていたビジョンに固執しないで、炊き出しとか、移動レストランとか、その時々にベストな答えを出していきたいと思っています。それが食にかかわる人間にとって一番の腕の見せ所であり、本分だと思うので。
撮影:松本輝一
むらやま・たいち 1975年、新潟県十日町市(旧中里村)生まれ。京都の料亭にて茶懐石を修業。2000年にイタリアに渡る。二つ星2店を経験し、三つ星レストラン「ダル・ぺスカトーレ」へ。シェフであるナディア・サンティーニのもとで徹底的にイタリア料理を学ぶ。最後は副料理長に。08年帰国。11年5月、オーナーシェフとして独立し、「Restaurant L’asse(ラッセ)」をオープン。20年8月、初の著書『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』刊行。
おがわ・さとし 1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。18年、『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞受賞。19年、『噓と正典』で直木賞候補。
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