- 2020.10.01
- インタビュー・対談
サイゼリヤでバイトする“異色の一つ星シェフ”が、いま絶好調な理由とは? コロナ時代をタフに乗り切る異才に、注目のSF作家・小川哲が迫る
聞き手:別冊文藝春秋
「村山太一×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.1[ダイジェスト]
俺もう、メシ作ってるだけじゃメシ食えないんだと
小川 飲食店をやるには、プレイヤーとマネージャー、両方の視点が必要なんだなあと、いまお話を聞いてて思いました。でも、料理に対する感度が高くて料理人やってる人が、独立した途端に経営者として何もかも判断しなきゃいけないって、かなり難しいのではないですか。作家も一緒で、出版社がマネージメントとかプロモーションを代行してくれるからなんとかなってますけど、もし、明日から全部自分でやれって言われたら僕には無理ですね(笑)。ラッセがうまくいってるのって、村山さんに両方の資質があったからなんでしょうか。
村山 借金して、自分でお店開いたときに「これからはトータルプロデュースしなきゃいけないんだ」と肚を括ったんですよ。でも実際、店をオープンさせたら、ほんとにやることが多くて、料理に割ける時間は一〇%もなかった。最初の三年間は毎日店に泊まり込んで、朝の七時半まで仕込みをして。三〇分寝てから築地に行って仕入れをし、店に戻る途中に銀行に寄って入金業務。空いた時間に従業員の給与計算したり、税理士さんと打ち合わせしたり。それまでは一〇〇%、自分の時間は料理の創作に充てていたのに、いきなりそんな生活で、「ああ、俺もう、メシ作ってるだけじゃメシ食えないんだ」って本当の意味で立場を自覚しました。
小川 今日だって、僕、まだ村山さんから料理のお話聞いてないですもんね。
村山 オーナーシェフって、とても芸術家ではいられない。これからの時代なんて特にそうですよね。レストランに求められてるものが明らかに変わった。まず、一にも二にも安全、安心。スタッフが健康であること。そして、外食のハードルがあがった分、その日の体験にスペシャルなものがないとがっかりされてしまう。だからこそ、お客さんの前でスタッフ全員がパフォーマンスを発揮できるように、過重労働を避ける。労働時間を圧縮してあげれば営業中の集中力も増すし、解放された後も有意義な時間を過ごして、面白いアイデアが出やすくなる。それが結局、今回、営業自粛期間中のラッセを救ってくれることにもなったわけで。
小川 あ、ラビオリですか?
村山 そうです。うちの看板メニューの「チーズのラビオリ」、これをeコマース(通信販売)で売ろう、一つ星の味を家庭で楽しんでもらおうというのは、完全にスタッフ主導で始まったことなんです。
小川 時宜にかなった挑戦ですよね。
村山 小川さんにもぜひ食べて欲しい。せっかくなんで、僕がいま作りましょう。狭いところですが、さっき言ったキッチンもご案内します。
小川 おお、ここが……。
村山 居酒屋のときはキッチンの対面にカウンターがあったそうです。ラッセではそこに壁をつくって、あとはちょっとしたレイアウト変更と、リースでコンベクションオーブンと、麵を茹でるパスタボイラーを入れて。このキッチン、投資金額でいうと九九万円しかかかってないんですよ。星つきレストランの中で、おそらくもっとも低投資で出来てるキッチンです(笑)。普通は一〇〇〇万とか二〇〇〇万円ぐらい初期投資をするものなんです、キッチンって。調理道具もほとんどドン・キホーテとか一〇〇円ショップで探して。
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