名バディ誕生と大阪の人情
――キャラクターについてお聞きしますが、中卒で叩き上げの新城と帝大卒の守屋のバディが絶妙だと思いました。
坂上 新城は戦争中は小学生だったので、戦場を経験していません。もちろん子どもの立場で戦後の分断を経験したゆえの屈託や葛藤は持ちつつも、新しい時代を前に進んでいく人物です。対する守屋は戦前から戦後まで一貫して国家体制の側にいました。そういう意味で古い人間なのですが、戦争経験者でもあって警察組織に対して彼なりの正義がある。そんな二人がお互いの足りない部分を埋めつつ、一緒に現代に繋がる警察を切り開いていく姿を描けたらと思いました。
――新城と守屋以外の大阪市警視庁のメンバーが魅力的なのと同時に、警察組織の内部事情がとてもリアルに描かれていますね。
坂上 やっぱり警察組織ってわかりやすい官僚機構ですよね。ある程度の規模の会社は官僚機構的になると思うんですけど、それの典型として警察を書いてみました。
――『へぼ侍』はキャラクター同士の掛け合いがとても楽しかったのですが、『インビジブル』では関西弁もあいまって、その楽しさがさらにパワーアップしてますね。
坂上 仕事で大阪には4年間住んでいて、地元の人の人情に助けられて生きていましたので、それを反映してみたいというのはありました。私自身も関西人なので、大阪の人は自然と書けるんですよね。昔から関西のおばちゃんの物まねは脳みそを使わずにできます(笑)。
「時代に乗れなかった人」を書きたい
――新城ら刑事たちの必死の捜査と並行して、岐阜の寒村から満洲へ渡った開拓移民の話が語られます。
坂上 戦後を考えるときに満洲は避けては通れないという思いがあります。沖縄戦に匹敵するほどの犠牲者も出ていますし、本土へ引き上げた方々にも悲惨な話はたくさんあります。あまり語られることのない満洲移民のことを小説で書いてみたかったんです。
――前作『へぼ侍』は明治維新から10年後、『インビジブル』は敗戦から9年後で、どちらも大きな変革から約10年後を舞台としていて、しかも主人公はともにその変革に間に合わなかった世代の青年です。
坂上 言われてみるとそうですね。時代に乗り切れなかった人や、どこか同時代の空気に違和感を覚えているような人が好きなんだと思います。時代に乗れた人たちの成功話も面白いですけど、乗り切れなかった人たちも当然生き続けなくてはいけないので、その人生には必ず物語があるはずです。
――最後に今後書いてみたいことなど教えてください。
坂上 『へぼ侍』では近代の始まりの大阪、そして今回『インビジブル』では戦後の始まりの大阪を書きましたので、もう一回、現代まで射程に収めて大阪が書けたらいいなと思います。いま興味あるのは大阪万博です。大阪の戦後が完成したのは万博だと思いますし、両親の家なんかにも万博の記念切手があったりして、やっぱり関西人にとっては非常に大きいですよね。
東京五輪がどうなるかわかりませんが、いまなぜか東京五輪と大阪万博で戦後をもう一度みたいな流れもあるので、その歴史は見直してみたいです。
(オール讀物9・10月合併号に掲載されたインタビューのロングバージョンです)
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