- 2021.02.15
- インタビュー・対談
松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」
聞き手:「別冊文藝春秋」編集部
「松山大耕×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.2[完全版]
小川 確かに、日常生活のなかで、生きるとは、死ぬとはどういうことか? と考える機会はそうありません。だから家族が入院したり、身近な誰かが亡くなったりしたときに、突如、あまりにも大きなテーマが降りかかってくることになる。どうやって考えればいいのかという訓練をしていないから、取り乱してしまうのも無理はない。
松山 そうだと思います。
小川 死に関しては、「一回死んでみる」ということができないわけで、経験で学べない以上、思考の工夫で乗り越えていくしかない。僕は学生時代、哲学と文学の勉強をしていたのですが、このふたつは宗教に通じる部分もあるし、もっと生きること、死ぬことに絡めて役立てていけたらいいのになと感じます。
松山 先日、大阪大学の文学部の先生が、卒業式のスピーチで「文学部で学ぶ意味とは何か」というお話をされていたんです。「人生の危機にこそ、文学は役に立つ」と。その通りだなと思いました。文学や哲学というのは、ものの見方とか考え方を提供してくれるツールだから、学んでいると、大きな災害や死などショッキングなことがあったときの受け止め方が変わってくると思うんです。そういうふうに考えていくと、心の支えというのは、人生の様々な場面で必要になるわけで、教育の現場を筆頭に、もっといろんなところで仏教の出番を作っていけたらいいなと思いますね。
創造性をサポートするのもお寺の役目だから
松山 もうひとつ、お寺には人を育てるという使命があって。うちのお寺では、二〇一一年から「襖絵プロジェクト」というものをやっているんです。お寺の方丈(本堂)にある七六面の襖に、若手絵師が絵を付けるという試みです。
いまあるのは、四〇〇年前に描かれた襖絵だから、当然傷んできているわけです。それをデジタルプリントの精密なコピーで修復してしまったら、同じものの再生産になってしまう。何より人が育たない。伝統とか文化というものは、その時代、その時にしかつくれない最高のものを残すという、努力の積み重ねなんですよね。高名な先生に描いていただくだけじゃなく、才能ある無名の絵師をお寺で育てるという、かつての御用絵師システムを復活させたいなと。あとは、絵師だけじゃなくて、襖とか筆、墨に和紙などといった周辺の文化にも寄与するべく、なるべく若い職人さんに関わってもらうようにしています。
小川 面白いですね。絵師さんについては、どうやって決められたんですか?
松山 セレクションをしました。
小川 そういうとき、何を基準に選ばれるものなんでしょう。
松山 それこそ直感ですね。誰も襖絵なんて描いたことがないわけですし、実績で選んでも仕方ない。実際、最終的に選ばれた絵師、村林由貴さんというんですが、彼女も水墨画なんて一度も描いたことがなかった。そこから墨を一から学び、禅の修行を行って。そうやって確かに成長していく姿を見ていると、自分もこうやって育ててもらったんだなとしみじみ思うんですよ。おのずと、次の世代にちゃんと繋がりをつくっていかねばと思います。
リスクを取らないというのは簡単です。でも、長い目で見ると、それこそがリスクになってしまう。いま、退蔵院には料理人の方々も通ってきてくださってますが、そういうふうに、お坊さんだけじゃなくて、いろんな文化の担い手を育てるというのがお寺の役割だなと感じてます。
テレワークならぬ「寺ワーク」の開始
小川 お寺の空きスペースを開放する試みも始められるとか。
松山 そうですね。同じ妙心寺の境内に壽聖院という塔頭がありまして。
小川 石田三成一族の菩提寺ですね。
松山 そうです。最近、そのお寺の本堂を、四〇〇年ぶりに解体修理しまして。その際、古い蔵も建て直したんですが、そこの二階が丸々空いている。コロナを契機にテレワークも定着しつつありますし、仕事場に困っている方に使ってもらったらいいんじゃないかと。もともと「寺子屋」もそうですし、子どもたちがお寺に来て、学び遊ぶというのはよくあることだった。
今度は大人のためにそれをやる。心落ち着く場所、それでいてちょっと緊張感もある。そういうところで仕事をし、合間に、和尚と一緒に坐禅をしたり、精進料理を食べたり。そういう、心と身体をすっきりさせながら働くというご提案ができたらなと考えています。
小川 それはすごくいいですね。なんだか、サボりにくそうだし(笑)。
松山 そう、みなさん集中しやすいみたいですよ(笑)。これまでもカンファレンスとか研修に使いたいとおっしゃる企業があればお貸ししていたんですが、好評でした。これからは、個人の方にも気軽に使っていただけるようにしていきたいですね。
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