サクッとした衣の下には、春の山菜にも似た柔らかな食感が! ちょっとだけふった塩が素材のポテンシャルを引き出し、野菜本来の優しい甘みが油のヤンチャさと結合して、スナック菓子のような軽やかな口当たりと暴力的なまでの中毒性をもたらしていました。

 知らなかった……ブロッコリーが、こんなに美味しい野菜だったなんて……!

 ブロッコリーの天ぷらってメジャーなものなの!?  知らなかったのは我が家だけ?

 いや、むしろこれは門外不出のブロッコリー農家の秘技をAさんがうっかり一般市民に漏らしてしまったというレベルなのでは!?

 そんな馬鹿なことを考えながらブロッコリーの天ぷらを家族全員で奪い合い、いつしか無残な天かすがキッチンペーパーの上に転がるのみとなりました。

阿部家のブロッコリーの天ぷら

 私は呆然と打ちのめされました。

 これまで自分は、ブロッコリーさんの何を見ていたのでしょう。

 食べられないわけじゃないけどそんなに好きって感じでもないかな~などと、よくも上から目線で、あたかもブロッコリーさん側に非があるような言い方が出来たものです。

 反省すると共に、美味しく頂く機会をフイにしていたこれまでを心底悔いております。正当な実力を見ようともせずに過小評価していたブロッコリーさんと、美味しいブロッコリーを作ってくださっていたブロッコリー農家の方には心から謝罪すると同時に、今後のより良いお付き合いをお願いしたい次第です。

 まあ、あれです。

 一言「ブロッコリーの天ぷらメチャうま」で済んじゃう話なんですけどね。

 Aさん、本当にありがとうございました!

 これからも美味しい野菜の食べ方があったら、是非教えてください!


©阿部智里

阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。

公式Twitter
https://twitter.com/yatagarasu_abc

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