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作家の羽休み――「第24回:弟のような愛犬」

作家の羽休み――「第24回:弟のような愛犬」

阿部 智里


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 私が小学2年生の頃、1匹の仔犬を家族に迎えました。

 全身が茶色の、由緒正しい雑種犬です。全体的な雰囲気は、強いて言うならば柴犬に似ていたでしょうか。三角形に垂れたボタン耳と鼻の周りだけが黒くて、お尻と尻尾の毛は長く、チアリーダーのポンポンのようでした。

 かつて農家だった私の家では、昔から外で番犬を飼っていました。当時飼っていた犬のチャウが死んでしまったので、動物病院経由で仔犬を探していたのです。「ちょうどいい子が見つかった」と一報が入ったのは冬の初めの頃で、私は仔犬を入れるための段ボール箱を抱え、母と一緒にわくわくしながら動物病院に向かいました。

 ところがそこで待っていた犬は、「仔犬」というイメージからはちょっと離れた、結構大きな犬でした。大型犬に近い中型犬の、生後3か月。今から思えばまだまだ赤ちゃんの部類ですが、コロコロの仔犬を想定していた分、すでに立派な「犬」の貫禄があるように見えたのです。最初、硝子戸越しにその姿を見た瞬間は、まさかその子が我が家に来る予定の仔犬だとは思わなかった程でした。

 母は、あまりに大きく、お顔が真っ黒のクマゴロウな犬を見て、「うわ、ぶちゃいくだな! これは智里が嫌がるかな」と思ったそうです。

 しかしその犬は私と目が合うと、つぶらな瞳をぱちぱちさせて、勢いよく尻尾を振り始めたのです。私は、すぐにこの子にメロメロになってしまったので、母には何度も「本当にこの子でいいの?」と訊かれてしまいました。

 聞くところによると、その子は何匹もいる兄弟が貰われていくのを見送った、最後に残った雄犬だということでした。母犬からしっかり犬社会のイロハを教わり、自分が貰われていく立場なのだということも理解していたと見えて、最初から本当に賢い子でした。

 大き過ぎて持ってきた段ボール箱に入らなかったので、私が抱えて車に乗ったのですが、家に着くまでの間ワンとも鳴かず、父と対面した際にはしっかり尻尾を振り、きちんと挨拶をして見せたのです。

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