つつがなく我が家に迎え入れることに決まったその子の名前は、先代の「チャウ」にあやかって、「チャチャ丸」に決定しました。
それから約15年もの間、私が中学、高校、大学、大学院に進学し――あるいは、小説家という職業があると知り、プロになるまでの長い間、彼は私と一緒に成長し、最期まで家族として生きてくれました。
私が泣いている時は一生懸命慰めてくれましたし、階段からおっこちた際に駆けつけてくれて誰よりも心配してくれたのがチャチャ丸でした。留守番で心細い時もこの子がいれば安心でしたし、子どもと仔犬、精神年齢は同じと見えて、一緒に遊びまわって大きくなったのです。
チャチャ丸のクマゴロウ具合は成長するにしたがって落ち着き、成犬になる頃にはすっかり可愛い顔に変わりました。(まあ、クマゴロウのままであったとしても、私にとっては誰がなんと言おうと世界一可愛い犬なのですが。)
面白いことに、父にはボスとして従い、私には仲の良いきょうだいのように接してくれたチャチャ丸は、母に対してはやけに生意気な態度をとりました。最も長く一緒にいて、散歩も餌やりも一番世話になっていたはずなのに、やけに小ばかにした態度をとるのです。
母は「アンタ、絶対貰われてきた時のこと根に持ってるでしょ!」などと言っていましたが、どこ吹く風といった顔をしていました。
しかし、犬の一生は人間よりはるかに短いものです。
晩年は認知症になってしまった上、目も耳も不自由になって意思の疎通が困難になってしまったのですが、それでも実家に帰省してきたある朝、何気なく「おはよう」と声をかけると、びっくりした顔を私に向けた瞬間がありました。
「あれ! いつの間に帰って来てたの。全然気づかなかったや」
おかえりなさいと言わんばかりの表情に、ああ、やっぱりこの子は家族だな、としみじみ感じました。
チャチャ丸が死んでしまった後、我が家は猫を飼うことになるのですが(コラム第3回「うちの子になった野良」参照)、猫のニャアは孫のようなものでして、一人っ子の私にとって弟といえる存在は、きっとこの先もずっと変わらず、チャチャ丸1匹だけでしょう。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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