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豊富な食材に多様な調理法――江戸の人はこんなものを食べていた!!

豊富な食材に多様な調理法――江戸の人はこんなものを食べていた!!

青木 直己

『江戸 うまいもの歳時記』(青木 直己)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

『江戸 うまいもの歳時記』(青木 直己)

 食の材料

 江戸時代の料理に使う材料、特に野菜は制約が多く、今とは姿かたちが大きく違っている場合がある。たとえば白菜は、現在のように丸く結球するのは明治以降である。

 人口一〇〇万を超える巨大都市江戸の人々の胃袋を満たすために、近郊には名産野菜が生まれた。たとえば小松川(江戸川区)の小松菜、谷中(荒川区)の生姜(しょうが)、大井(品川区)の葱(ねぎ)など、中でも練馬大根、亀戸大根は名高い。漬物にした場合、練馬大根は糠漬け(沢庵漬)、亀戸大根は葉も一緒に漬ける浅漬けに使われる。姿も練馬大根の方が大きく太い。丸く巨大な鹿児島の桜島大根は、江戸時代後期には他の大根同様に縦に長い(大根の項参照)。大根一つをとっても時代劇に登場させるには注意が必要ではあるが、現在の栽培品種との違いから利用に制限もあり、あまり神経質になってもドラマの本筋から外れてしまいそうではある。

 以前、あるテレビ局では胡瓜(きゅうり)の形が江戸時代と現代では随分と違うので、時代劇には使わないという話を聞いたことがある。そこで江戸と大坂の野菜の姿を描いた史料(『街能噂(ちまたのうわさ)』(一八三五))にあたって見たところ、線描画ではあるが基本的には同じ形で、現在のものより太いように思われた。いま売られている胡瓜は、売る時の見た目を考えて細く真直ぐなものが好まれているが、少し育ちすぎた胡瓜ならば時代劇に登場させてもよさそうである。ただし大坂の胡瓜は「江戸より細長くして風味至りてよし」とあるので、地域差はあったようである。江戸時代後期から幕末にかけて野菜を描いた史料(本草書他)が増え、また幕末から明治初年に撮られた八百屋の写真も残っており、野菜の姿かたちを確かめるのには便利である。

 江戸時代の食文化を時代劇に反映させるには、制約がなにかと多いのは確かである。一方、時代劇を通して当時の人々の食生活に触れるという楽しみもある。本書では江戸時代を中心に、かつて私たちの先人が楽しんだ食文化を野菜や魚介などの食材、蕎麦などの加工品、醬油などの調味料を通して紹介している。当時の食事情に触れていただくとともに、本書を片手に時代劇を楽しんでいただければと願っている。

文春文庫
江戸 うまいもの歳時記
青木直己

定価:803円(税込)発売日:2021年12月07日

電子書籍
江戸 うまいもの歳時記
青木直己

発売日:2021年12月07日

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