【前回・紀伊編のあらすじ】
二泊三日の灯台めぐりを終え、さて後は帰るだけ――とはいかせないのが流石の文春クオリティ!
鳥羽駅発の特急は無事に名古屋に到着したけれど、そこに待ち構えていたのは見覚えのあり過ぎる顔で――!?
「阿部さんの身柄、確かにお預かりしました」
そう言って、改札を出たところの私を即座に確保したのは、長い付き合いになるベテラン編集さんです。
この三日間アテンドして下さった若手編集さんはバトンのごとく私を彼女に引き渡し、
「阿部さん、あと一日頑張って下さいね!」と一足先に東京にお帰りになりました。
そうです。
二泊三日の旅程に加えてもう一泊し、翌日名古屋で書店回りをすることになったのです。
ここしばらく、コロナのせいで県をまたぐ移動を自粛していたので、久しぶりの地方でのご挨拶回りです。しかもなんの因果か、10周年記念のオンライントークイベントでちょっとだけ話題に出た「予定を詰め込みすぎて食事の時間がなくなり、駅地下でゼリー飲料10秒メシ」をしたメンバーが再結集してしまいました。
当時の担当編集さんは、現在「オール讀物」の編集長になられているのですが、「名古屋なら!」と言って駆けつけて下さったのです。そして、当時大阪担当だった営業さんも担当地域が名古屋に変更になっていたのでした。
「ギチギチが大好きな阿部さんにもご満足頂ける予定を組みました!」
そう、予定表と共に営業さんのサムズアップが目に浮かぶ伝言を受け取った際には「おやおや~? 別に好きとは言った覚えはありませんが!?」と叫びたくなりましたし、実際彼の顔を見た瞬間に叫びましたね。
彼は「ええっ、そうだったんですか?」と無垢な瞳で返してきたので、絶対分かってやっていると思います。今更何を言っても駄目なんだなと悟りました。
しかし、もし私が「ゆっくりごはん食べた~い!」とかほざいたせいで「ご挨拶回りの数を減らしました。本当はもっと行きたかったのですが……」とか神妙な顔で言われたら、それこそ絶望しそうなので、彼のやっていることは間違いなく正しいんですよね……。
あれです。10年も同じ会社と付き合っていると、茶番というかじゃれあいというか、良くも悪くもお互いそういう肌感覚が分かって来てしまうのです。まあ、いい塩梅なのだろうと思います。
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