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<恐怖の帝王>が贈る新たなホラー巨編。息子との共著で何が変わったのか?

<恐怖の帝王>が贈る新たなホラー巨編。息子との共著で何が変わったのか?

文:編集部

『眠れる美女たち 上下』(スティーヴン・キング  オーウェン・キング)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 スティーヴン・キングの合作作品としては、ホラー作家ピーター・ストラウブとの『タリスマン』と続編『ブラック・ハウス』があります。この二作の執筆の際には、キングとストラウブが互いに原稿を送り合い、手直しし合いながら仕上げていったという内幕が明かされています。しかし本書に関しては、いまのところ、キング父子がどうやって書いていったかは語られていないようです。日本語版の翻訳にあたり、作中の疑問点について問い合わせのメールをしたところ、オーウェン・キングから回答があり、その文面から、父キングによる加筆修正を含む改稿を重ねたらしきことが感じられました。いずれにしても本書のできばえは、何も知らずに読んだなら「スティーヴン・キングの新作」としてまったく違和感を感じないものになっていることは間違いありません。これまでのオーウェン単独作品をみるに、本書に登場する受刑者の面々や腕相撲(アームレスリング)チャンピオンである女性刑務官、あるいはドラッグ中毒の形成外科医といった奇妙な人物たちに、オーウェンの才気が表れているようです。

 さらにもうひとつ、女性に対する男性の憎悪であるミソジニーが本書のテーマのひとつであることは看過すべきではないでしょう。本書の悪役であるドン・ピーターズ刑務官がまさにそれを体現した人物ですし、ミソジニーへの反動で生まれたミサンドリーを抱える女性も登場します。男性と女性の分断の問題を「オーロラ病」というレンズを通じて見つめる、というテーマは本書に一貫して流れているものです。父キングも、『IT』や『ローズ・マダー』などでミソジニーやDVの問題を描いてきましたが、本書でそれがいつも以上に強く打ち出されているのは、父キングよりも若い世代であるオーウェンのインプットゆえかもしれません。

 なおオーウェンはスティーヴン・キングとタビサ・キングのあいだの次男ですが、長男も『ブラック・フォン』『NOS4A2』などで知られる幻想ホラーの名手ジョー・ヒルであることはよく知られています。母タビサも小説を発表していますから、まさに作家一家。唯一、オーウェンとジョーの姉であるネイオミ・キングだけが作家ではありませんが、彼女は神学を学んだ聖職者として、すぐれた説教に与えられる賞を受賞しているそうなので、文才は彼女にも受け継がれているようです。

 ちなみにスティーヴン・キングは短編集『ナイトメアズ&ドリームスケイプス』の自作解説の中で、短編「メイプル・ストリートの家」について、クリス・ヴァン・オールズバーグの絵本『ハリス・バーディックの謎』の中の絵を一点選んで、それに基づく短編を書くという遊びを妻タビサと「末の息子」オーウェンと三人でやったときに生まれたのが「メイプル・ストリートの家」だと明かしています。メイン州バンゴアの居間での親子の遊びの延長線上に、本書という圧巻の大作があるのだと思うと、感慨深いものがあります。

 とうに七十歳を超えたスティーヴン・キングですが、旺盛な創作欲は未だ衰えを見せません。とくに『アンダー・ザ・ドーム』以降のキングは、初期の剛腕ホラー・エンタメの路線へ回帰したような快作を連発しています。直近の邦訳作品『アウトサイダー』は「この世ならぬもの」による恐怖を描くものでしたし、小社より近刊予定の The Institute は、利発な少年と謎の組織の戦いを描くSFサスペンス的な作品で、初期の名作『ファイアスターター』を思わせます。そして今年(二〇二二年)刊行された新作は、その名もなんと Fairy Tale。キングが真正面からファンタジー的な物語に挑んだ大作で、新たな代表作になるのではないかと期待されます。

文春文庫
眠れる美女たち 上
スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗

定価:1,749円(税込)発売日:2023年01月04日

文春文庫
眠れる美女たち 下
スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗

定価:1,749円(税込)発売日:2023年01月04日

電子書籍
眠れる美女たち 上
スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗

発売日:2023年01月04日

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発売日:2023年01月04日

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