夏場の苔テラリウムのために購入したワインセラー、見た目に関しては期待していたよりおしゃれな感じにならず、ライトも弱いという短所がありましたが、実用性の面では思いがけない長所がありました。
充電式のライトを買おうと思い立った段階で、ふと、私は気付いたのです。
これ、備え付けのライトを使わないなら、最上部のスペースに食品入れられるんじゃない? と。
前のコラム(第80回:鳩との闘い④)でもちょこっと書きましたが、私は原稿が切羽詰まって来ると、タイムセールで1週間分の食料を買い込み、次の特売日まで引きこもり続けるという日々を送っています。
当然、冷蔵庫は食品でいっぱいになるわけで、いつも買い出し後は強制的に食品で立体パズルをさせられることに頭を悩ませていたのです。
なるべく無駄なスペースがないようにと計算して買ったワインセラーですが、私の苔テラリウムには結構高さがあるので、蓋をぶつけないようにすると、どうしてもデッドスペースが出来るサイズになってしまいました。ライトを使わないなら、最上部に本来ワインを置くための取り外し可能な金網を戻すと、丸々一段分が使えることになります。
試しに、ダニが発生すると困るので冷蔵庫に保存はしていたけれど、そこまで低温保存の必要がない乾物やおやつの類を入れてみると、なんということでしょう! 冷蔵庫が圧倒的に使いやすくなりました!
ワインセラーの温度は18度です。桃などの冷気に弱い果物などは、むしろ10度を下回る野菜室よりもこっちのほうが保存に適しています。
そこに気付いてしまったらもう歯止めが利きませんでした。
最初はあまり視界に入らない最上段を使うだけでしたが、テラリウムの置かれている下の部分にも空いたスペースはあるのです。つい、真夏の温度ですぐにへたってしまう葉物を入れてみたところ、思いがけずよい感じに保存出来たので、以来、見た目を考えずにニンニクの芽やらバジルやらをぶちこむようになってしまいました。
そうなんです。バジルを枯らしてしまった一件以来、どうしても食べる気になれなかったバジルを、ワインセラーの購入を機に再び買うようになったのです!
しかも、取手を欠いてしまいどうしたものかと悩んでいたお気に入りのコップ(第52回:粗忽者と対策)も、このワインセラーに葉物を入れるにはサイズがぴったりでして、ついそのままにしていたところ、バジルから早々に根っこが出てきてしまいました。
一瞬、変わり果てた先代バジルの姿が頭をよぎりましたが、ワインセラーの力を信じて――しかも以前買ってしまった肥料が手つかずで残っているので――もう一回、バジルの水耕栽培にも挑戦してみようかな、という気持ちになっています。
最近ではワインセラー効果か、完全に枯れていると思いつつもどこかの部分が生きているかもと未練がましく取らずにおいた白く変色した苔から、小さな芽も出てきました。
いやはや、なんともうまい具合に持て余していたもろもろが解決したので、生活の質は断然上がった気がします。ワインセラーを買って本当に良かったです!
ただ、苔テラリウムもバジルの水耕栽培も、もともとは殺風景な仕事部屋に癒しを……という目的で始めたものなのに、現在それらは真っ黒なワインセラーの中に全てしまい込まれております。理科の実験室のような様相を呈しているという点において、本末転倒どころか状況は悪化していると言えなくもないですが、まあ、あれもこれも万事解決とはいかないのが人生というものですよね!
どうなることか全くわかりませんが、粗忽者な作家と苔とバジルの続報を、引き続き生温かい目で見守って頂ければ幸いです。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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